花の多くは、受粉のために花粉の運搬を昆虫に依存している。送粉者である昆虫は、ハチ目、ハエ目、チョウ目、コウチュウ目の4目で、9割以上の動物媒植物種の受粉を担っている。相互に必要な存在ではあるが、実は両者の間で騙し合いが起きているのをご存知だろうか。
花と昆虫の不思議な関係。
そこに迫るのが『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』(石井博著、ベレ出版刊)だ。
花と昆虫の間では、私たちの知らないところでさまざまな駆け引きが行われている。報酬(花蜜など)を提供せずに昆虫を騙すことで送粉を達成する植物(無報酬花という)もいれば、花蜜などの花の資源を利用しておきながら、送粉にほとんど寄与しない昆虫もいる。片方が片方を一方的に搾取する関係があるのだ。
報酬をほとんど渡さず、昆虫を騙すことで送粉を達成する花のことを「騙し花」という。たとえば、ウメバチソウの花は、ほんのわずかしか花蜜を分泌しない。その代わりに花粉をもたない仮雄しべの先端にキラキラ光る黄色い粒をたくさんつけている。この粒に栄養的な価値はないが、ハエやハナアブがこの粒を花蜜か花粉だと勘違いして訪花するという。
また、無報酬花のなかには、報酬を多くもっている特定の植物種に花の色や形を似せることで送粉者を引き寄せるものもいる。このような花のことをベイツ型擬態花という。
南アフリカに生息するディザというラン科の植物は、花蜜をもたない無報酬の花をつけるが、その花の色は地域によって異なる。その地域に生育する報酬花の花の色に似せることができるのだ。
一方、花弁や子房など、花の一部や全部を食べるために花を訪れる訪花者のことを「花食者」という。キク科の頭花の上で、他の花頭に移動することなく吸蜜し続けるカメムシや、花に滞在したまま花粉を食べるダニがこれにあたる。また、アリは一部の植物種にとって重要な送粉者でもあるが、実は多くの昆虫が嫌がる存在なので。アリがいると他の訪花者はその花を避けてしまう。植物種にとって厄介な存在でもあるのだという。
本書は、花や昆虫に興味を持っていて、少し踏み込んだことまで学んでみたい人、これから送粉生態学を学びたい人に向けて、花と送粉者の関係について、網羅的に踏み込んだことまで解説する。
不思議で面白い花と昆虫の関係をもっと詳しく知りたい。そんな人は本書を手に取ってみてはどうだろう。より深い知識が得られるはずだ。
(T・N/新刊JP編集部)
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