学校の授業で必ず習う『古事記』と『日本書紀』は、日本の古代史を知るには欠かせない史料となっている。
そんな『古事記』と『日本書紀』について、『古事記と日本書紀 謎の焦点』(瀧音能之著、青春出版社刊)では、日本古代史、特に『風土記』を基本史料とした地域史の研究を進めている駒澤大学教授の瀧音能之氏が、『古事記』と『日本書紀』は古代日本の真実をどこまで明らかにしたのかを「記・紀」を通して読み解いていく。
『古事記』も『日本書紀』も神話が記載されているが、両書には相違点がある。『古事記』は、神代から推古天皇までが上・中・下巻の3巻にまとめられ、上巻は神話にあてられている。全体の3分の1を神話の叙述に費やしていることになる。
一方、『日本書紀』は、「一書」という形で本文の他に別伝承を載せている。この「一書」に書かれている多くが神話の部分だ。 また、共通点もある。たとえば、『古事記』の叙述対象は神代から推古天皇まで、『日本書紀』は神代から持統天皇までとなっている。両書とも神代から始まり、女帝で終わっている。もう一つは、完成した年が非常に近いこと。『古事記』は712年の成立、『日本書紀』は720年と、完成年は8年しか差がない。どちらも8世紀、奈良時代初期の歴史書となるのだ。
また、『古事記』と『日本書紀』のどちらにも登場するのが、日本神話の中でも代表的な英雄のヤマトタケルだ。ただ、両書を読み比べてみると、ヤマトタケル像には大きな違いがあるという。
まず、表記から違う。ヤマトタケルノミコトの表記として用いる日本武尊は『日本書紀』にみられるもので、『古事記』では倭建命という表記が使われている。
また、ヤマトタケルのイメージにも違いがある。『古事記』では、父の景行天皇の命を受けて、西の熊襲、出雲健、東方十二道の荒ぶる神を平定する英雄。そして、ヤマトタケルの死は霊力をもった剣を身辺から離し、伊吹の山神を言あげしたためであり、不慮の死を遂げる悲劇の英雄として描かれている。
一方、『日本書紀』では、景行による遠征が行われたあとにヤマトタケルが西征を行ったことになっている。東方遠征はヤマトタケルが主体ではあるが、景行の巡幸説話が記されていて、ヤマトタケルが英雄というわけではなく、常に大王がその背後に見え隠れする。ヤマトタケルの死についても、悲劇の英雄という感じではなく、大王のために忠誠を尽くした姿が強調されている。
ヤマトタケルの系譜にも違いがあり、ヤマトタケル伝承といっても、『古事記』と『日本書紀』では、さまざまな違いが見られるのだ。
本書で明かされている『古事記』と『日本書紀』の接点と相違点はいずれも興味深いものばかり。我々の祖先が描かれている日本古代史の奥深い世界に思いを馳せてみるのもおもしろいかもしれない。
(T・N/新刊JP編集部)
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