飲食店や美容室、食品店などなど、個人経営の商店の中には、上がらぬ売上とかさむコストに苦しむ店が多い。
なぜ儲からないのか?
幾度も自問したであろう問いかけへのヒントとなるのは「勝負する場の見極め」である。
『余計なことはやめなさい!: ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』(集英社刊)の著者、氏家健治さんが経営する「ケンズカフェ東京」は、倒産寸前だったというどん底の状態から、今では年商3億円を売り上げるガトーショコラの名店として知られるまでになった。
急上昇の決め手となったのは「余計なこと」をやめたこと。この真意はどのようなものか。氏家さんご本人の言葉を聞いてみよう。注目のインタビュー後編をお届けする。
■ガトーショコラだけで年商3億円!個人経営店が生き残るための秘策
――今回の本ではこれまでやられてきた取り組みを一般化させてノウハウに落とし込んでいます。肝になるのは「余計なことの見極めてやめること」だと思いますが、「余計なもの」とはどのように見極めていけばいいのでしょうか。
氏家:立場によっても違うのでしょうが、ひとつ言えるのは「やりがいを感じないこと」はやめた方がいいということです。自分でやりがいを感じることであれば、途中苦しくても踏ん張れるというのはあります。
もうひとつ、「利益が上がらないもの」はやめた方がいい。これは当たり前のことのように聞こえるでしょうが、かつて僕がやっていた「ディナー」のように「レストランなんだからディナーはやるものだ」というような思い込みで、儲けが出ないものを続けてしまっているケースは少なくないんです。
ビジネスなので、目的は「儲けを出すこと」です。だから儲からないことをやらないというのは当たり前のことなんですけど、案外そこに気づかなかったり、妙なプライドからやめられなかったりします。
――ガトーショコラ一本に絞る過程も重要なように感じました。ランチをなくし、カフェをなくし、最後に宴会もやめました。こうして徐々に移行するというのがうまくいったポイントだったのでしょうか。
氏家:そうですね。あとはダメだったら元に戻せるようにしておくことも大事だと思います。
夜の宴会を最後まで残していたのは、「ガトーショコラ一本」がダメだった時のリスクヘッジなんです。もしうまくいかなかったら利益の出る宴会で立て直そうと。だから、本当は10年前からガトーショコラだけでいけるなとは思っていたのですが、実際に一本に絞ったのは5年前でした。やっぱり何があるかわからないので。
――うまく行くと確信していても、実際に一本に絞るのは怖いですよね。
氏家:怖いです(笑)。まして、ガトーショコラだけを売る店なんて前例がないですし、1本3000円のガトーショコラがいつまでも売れる保証なんてありませんから。ただ、もしこれがやれたらおもしろいぞ、という思いはありました。
――ガトーショコラ一本に絞ったのと同時期に、氏家さんはシェフをやめて経営に専念されています。もう作るほうには未練はないのでしょうか。
氏家:それはよく聞かれるのですが、まったくありません。「オーナーシェフ」っていう言葉があるように、経営者自身が料理を作れることは飲食店にとってプラスなのですが、シェフには旬がありますから、やはりいつかは経営に専念すべきなんだろうなというのが私の考えです。
実際、私がシェフを辞めて現場に任せてから売上はすごく伸びました。おそらく3倍くらいにはなっているはずです。やはり経営者のやることは経営であって、現場で商品を作ることではないと思います。
――ビジネスを拡大する予定は今のところないとおっしゃっていましたが、次のビジョンのようなものもないのでしょうか。
氏家:ないといえばないのですが、ファミリーマートのスイーツの監修をやっていたりするので、そちらの方も力を入れてやっていきたいというのはあります。「チョコレートならファミリーマートが一番だよね」というような風評ができたらいいなと思っていますし、もう少しいえば「ケンズカフェ東京が監修しているからね」と言われたらうれしいですよね。
コンビニは町のケーキ屋を潰すくらいの勢いでやるべきですし、町のケーキ屋はコンビニなんかには負けないという気持ちでやるべきです。そうやって切磋琢磨していければいいのではないでしょうか。
――確かにファミリーマートでケンズカフェ東京が監修したガトーショコラを見たことがあります。しかし、こちらが人気になってしまったら肝心のお店の売上が下がってしまうというようなことはないのでしょうか?
氏家:昔はそういうのは危険だといわれていたんです。ブランドが毀損されるといいますか。でも今はそういう時代じゃないと思います。客層も違っていて、ファミリーマートのガトーショコラを買った人がうちに来てくれることはあるかもしれませんが、逆はあまりないのではないかという気がしています。
ファミリーマートは全国にありますからケンズカフェを全国の方に知っていただくチャンスだと捉えています。
――ガトーショコラの味は、ずっと変えていないんですか?
氏家:この10年間を通して、段階的に砂糖を減らしています。今年の6月にはこれまでの三分の一にしました。
「ギルドフリー」という言葉がありますが、よりライトな甘さといいますか、食べても罪悪感を覚えない控えめな甘さが時代的にも求められていますからね。これまでは「濃く、おいしく」だったんですけど「軽く、おいしく」という方向に変えました。
――商品が1種類しかないだけに、味の変化が売り上げに直結する怖さがありますね。
氏家:それはありますよね。だから日々データを取りますし、ツイッター検索で反応を見たりもします。
ただ、これまでの成功体験にこだわりすぎて味が古くなってしまうのが一番危険だと思っています。これだけあちこちで「糖質オフ」が叫ばれているわけですから
――本書をどんな方に読んでほしいとお考えですか?
氏家:個人経営の方ですとか起業した方、あとは大きな会社のチームのリーダーの方が読んでも役立つところがあるのではないかと思います。
ビジネスの世界で戦っていくなかで「自分ここで戦うんだ」という軸を決めることの重要さをこの本では伝えたいです。とにかく余計なことはやらないこと。勝負する場所を絞ることで勝てる確率は上がるんです。
――「余計なことはやらない」「勝負する場所を絞る」ということですが、実践するのは勇気がいることです。最後にこの決断を後押しするようなメッセージをいただきたいです。
氏家:ダメだった時のための「逃げ道」は用意しておくべきです。私も「ガトーショコラ一本」がダメだった時のために、夜の宴会だけは最後まで残していました。うまくいかなかった時に戻れる場所を用意しておくことで、チャレンジしやすくなるのではないかと思います。「一か八かの賭け」にならないようにやってみていただきたいですね。
(新刊JP編集部)
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