起業を考える人にとって最大の悩みは「お金」にまつわるものだろう。開業資金に人件費、運転資金など、起業にはかなりのお金がかかるイメージがあり、商品やサービスの価格設定なども悩みのタネになる。そのため、起業したい気持ちがあっても「お金」が足かせとなり、なかなか前に進めない人は多い。
『起業1年目のお金の教科書』(かんき出版刊)の著者、今井孝さんは、起業に関するお金の悩みの多くは「お金があるかないか」よりも、自分のお金に対する感情や感覚がつかめていないためだと語る。
本書は、ベストセラーになった前著『起業1年目の教科書』の第二弾として、起業にまつわる「お金」に特化した内容だ。これまで3万人以上の起業家にノウハウや考え方を伝えてきた今井さんに起業家に必要なお金との向き合い方について伺った。
■起業して成功するための「お金との向き合い方」
――『起業1年目のお金の教科書』では、起業やビジネスをしていく際のお金にまつわる恐怖心や不安など「お金と感情」の結びつきについて取り上げられていますが、起業1年目の人がとらわれてしまうお金の怖さや不安にはどのようなものがあるのでしょうか?
今井:「減っていくことがただただ怖い」という感覚が一番だと思います。
起業家や経営者にとってのお金の捉え方で一番違うのは、「お金は生み出せる」と考えているところですね。
この感覚を身につけていくことは起業に際してとても大切なことです。
――起業家的、経営者的な「お金は生み出していける」という感覚はビジネスを通じてしかわからないものなのですか?
今井:ビジネスといっても、大きなビジネスでなくてもその感覚を体感することはできます。
たとえば、フリーマーケットやネットオークションで、自分の手元にあるものを自分が決めた値段で売ってみる。買取業者に売ると自分がお客さんの感覚になってしまいますが、フリマやオークションなら自分が商売をしているという感覚になれて、「お金は生み出せる」ということが実感できると思います。
――なるほど。たしかにそれは小さいながらもビジネスですし、原体験としてやってみるのはよさそうですね。
今井:そうですね。原体験というのは大事です。小さい頃、親に肩たたきをしてお駄賃をもらったことがある人もいると思いますが、それだってお金をかけずにゼロからお金を生み出しているわけです。その積み重ねを経験しておくことはとてもいいことだと思います。
――本書では「お金にどのくらいの恐怖心を持っているか」がビジネスに大きく影響するというお話がありましたが、今井さん自身は起業した当初、どのくらいの金額だと恐怖や不安を感じていましたか?
今井:最初は10万円単位のお金を使うのにも不安がありました。でも、この感覚の上限は売上が出るという経験ができれば、少しずつ上がっていきます。
売上が出せるようになると「この金額なら取り返せる」と思えるようになるので、100万円の売上が出せる人はビジネスに100万円を投資するのが怖くなくなるし、1000万円の売り上げが出せる人なら、1000万円を動かすことに対する不安はそこまで大きくなくなります。
ビジネスを続けていく中で、売上が上がるようになれば一般的なお財布感覚の「お金」とビジネスにおいての「お金」は別々の感覚として捉えられるようになっていきます。
この体験自体は、すでに売上を出している人の近くにいることで学ぶこともできます。売上を出している人がいるようなセミナーや懇親会で話すだけでも変わっていくと思います。
――売上を出している人と接する環境があれば、身についていくということですか?
今井:はい。そういう人と話をすると「そういうふうに考えればいいのか」と気付かされたり、「言われてみれば、それほど悩むような金額じゃないな」と思ったりできますからね。
文字情報ではなく、そうした感覚を直に浴びるというのは大切なことです。なぜなら「感情」とか「感覚」は、実際に見たり聞いたりする体験があったほうが、強烈で実感しやすいからです。
――今井さんはよく「開業資金はいくらかかるか」と聞かれることがあるそうですが、初めて起業する方はどれくらいお金がかかるものだと思っているケースが多いのでしょうか?
今井:多くの人は、漠然としかわかっていないから数百万円とか1000万円とか膨大な資金が必要だと思っているのではないでしょうか。でも実際はそんなことはありません。
まず、自分の技能を活かしたスキルで独立には、そもそもお金はほとんどかからないですよね。 ITビジネス系であっても、最初はパソコン1台から始められます。
起業するのに一番お金がかかるのは飲食店などの店舗系だと思うのですが、パン屋をやっている私の知り合いは、始めるにあたってそれほどお金はかけていませんでした。
最初は移動販売でスタートしたので、かかったのは車のレンタル料と材料費や光熱費などのランニングコストだけです。つまり固定費はかけずにやっていたわけです。
こういった起業にお金をかけない方法は、探せば必ず見つかります。
たとえば、カレー屋さんを始めるのに、知り合いの居酒屋でメニューとして出させてもらっていた人もいます。カレーの売上の何%かを納めて、残りは自分の売上として確保していけば店舗がなくても始められるし、いきなり店舗を構えるリスクも抑えられます。
そういう小さな一歩が見つけられたらビジネスは進めやすくなります。やはり多くの人が「飲食店をやるなら店舗を借りないと」といったような思い込みで、階段の一段目を大きなものに感じてしまうんです。それが壁になってしまうんですね。
(後編に続く)
関連記事
・
ビジネスの判断力を鈍らせる「お金への恐怖」とは?
・
お金持ちでも幸せになれない人 フィナンシャルプランナーが語るその特徴
・
「仕事ができない人」を全員クビにした会社で起きた驚きの結果
・
100万部突破の『嫌われる勇気』は本当に人生の役に立つ本なのか?