スーパーや生鮮食品店に並んでいる野菜や果物。
多くの人が日常的に目にしているはずだが、それらを包んでいるパッケージについては、ほとんど誰も気にとめず、中身を出したら捨ててしまっているはずだ。
しかし、このパッケージ、実は長年の経験と研究、そして創意工夫が盛り込まれた努力の結晶なのだ。
『未開封の包装史―――青果包装100年の歩み』(林健男著、ダイヤモンド社刊)でその歴史が紹介されている株式会社精工は、日本の農産物包装フィルムの約25%を手掛けるトップシェア企業。
農産物包装フィルムというあまりにもニッチなこの分野で、いったいどのような工夫がなされているのだろうか。
■「おいしく長持ち」を実現する、青果物パッケージのひと工夫
思えば、かつて野菜や果物は八百屋の店先に裸で並べられていた。レタスやホウレンソウなどの葉物野菜が一つずつパッケージされたり、キャベツが1/2個や1/4個といった単位でパッケージされて売られはじめたのは比較的最近のことだ。
そのパッケージにしても、1980年代まで農産物パッケージとして使われていたのは、発砲スチロール製のトレーや塩化ビニール製の成型容器だったが、1995年の「容器包装リサイクル法」をはじめ、産地や流通履歴を明らかにするトレーサビリティへの要望の高まりなど、環境の変化にともなって、素材やデザインが変わってきた。
そして今、農作物のパッケージは、作物の鮮度と味を保つために、その作物ごとに最適なパッケージが開発されるまでに進化している。
たとえば、呼吸量が多く劣化の早いオクラの場合は表面に微細な穴をあけて通気性を確保したフィルムが保存に適しているし、水分に弱くカビの生えやすいアメリカンチェリーやミニトマトも同様に穴が必要だ。ただし、こちらは穴が大きすぎると虫が入ってしまうため、小さな穴にしなければならない。
また、そのまま電子レンジで調理できるエダマメのパッケージや、カット販売が主流になっているスイカの鮮度を保ち、持ち運びで果肉を傷めないパッケージなど、調理スタイルの変化や、小家族化による買い物スタイルの変化に合わせた商品も多い。
■単身者の強い味方「カット野菜」に隠された驚きの技術
ただ、技術という点でいえば、最も難しいのは、一人暮らしや少人数家族の増加で需要が高まっている「カット野菜」の包装だという。というのも、通常カット野菜は数種類の野菜がブレンドされているが、その内容によって呼吸量が変わってくるのだ。
レタスが多く入っているならパッケージはOPP(二軸延伸ポリプロピレン)製のものだが、キャベツが主体ならば袋内のガス濃度をコントロールするフィルムが必要になる。数百円のカット野菜とはいえ、そこには驚くべき気配りと、鮮度保持のための技術開発が隠れているのだ。
著者の林さんいわく、本来なら同じ作物でも季節や産地、土壌、肥料や農薬のバランスなどによって適切なパッケージは異なるという。消費者が意識することは少ないが、農作物のパッケージとは、追究を始めるときりがないほど奥深い世界なのだ。
本書には、精工の試みと歴史が時代背景とともにつづられ、それはそのまま日本の包装技術の歴史とも重なる。普段、意識することなく手に取っている野菜や果物も、この本を読めば見え方が変わってくるのではないか。
(新刊JP編集部)
『未開封の包装史―――青果包装100年の歩み』(ダイヤモンド社刊)