生きていればいつかは必ず直面するのがパートナーや家族との死別です。
しかし、私たちは「死が間近に迫った家族とどう接するか」「家族が亡くなった時に何が起きるか」といった「大切な人の看取り方」について考えることはほとんどありませんし、こういったことは誰も教えてくれません。これでは、いざという時に動揺するばかりで、何をしていいのかわからないということになってしまいます。
「自分が死んだ時のことを元気なうちから家族と話し合っておくべき」と語るのは『家族が死ぬまでにするべきこと』(彩流社/刊)の著者、斉藤弘子さん。今回は斉藤さんにお話を伺い、パートナーと母を看取ったご自身の経験から、大切な人の死とどう向き合うかについて教えていただきました。その後編をお届けします。
――人の死後に家族がやらなければいけないことの多さには驚かされました。「一人で抱え込まないことが大事」ということを書かれていましたが、どんな所で人に頼るべきかという点について教えていただけますか。
斉藤:葬儀屋さんが、死亡届などの事務手続きを代行してくれますし、遺品整理も業者に頼むことができますから、たとえば遠くに住んでいる一人暮らしの親が亡くなったというような時は頼ってもいいと思います。
ただ、遺品整理に関していえば、机の中など大事なものが入っていそうな場所は自分で整理したほうがよいです。故人からの手紙などが出てきたりするので。
――銀行や保険など、故人にまつわる各種の手続きにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
斉藤:これはケースバイケースで、結局のところ「相続が揉めるか揉めないかで期間は変わる」と言っていいと思います。
相続税の申告納付は故人が亡くなったことを知った翌日から10カ月間で、それを過ぎると無申告加算税や延滞税がかかってしまいます。親族同士が争ったらまず10カ月では話がまとまらないどころか、3年以上争ったという話も聞きますから、相続をスムーズに進めるためには遺言があったほうがよいのです。
――自分より先に亡くなるであろう親と、いざという時のことについて話しておくのは大事なことかと思います。その際はどんなことを話して決めておくべきでしょうか。
斉藤:大事な問題として「延命措置の是非」です。ただ、これは事前に本人の意思を聞いていても、いざ選択を迫られたらなかなか決断できないものですけれど。
次に「葬儀の形」など埋葬について。そして、忘れてはいけないのが「債務」です。借金があるのか、連帯保証人になっていないかというのはとても重要なことなので確認しておくべきです。確認して債務があるようなら相続放棄や限定承認という選択肢も検討できますが、確認せずに相続して、あとから大きな債務があることがわかったら大変なことになります。
そして、相続税が発生しないようなケースでも、財産の分け方は遺言で書いてもらっておいた方がいいのです。たとえば財産は、亡くなった親と長男家族が住んでいる家だけ、兄弟は3人で遺言はなしという場合、財産を分けるには家を売るしかありません。でも、家を売ったら、長男家族は住むところがなくなってしまいます。また、兄弟のうちの一人が亡くなった親の介護をしていた場合、「ずっと介護して面倒見ていたのは俺じゃないか。均等に分けるのはおかしい」と言い争いになることも多いのです。財産はあって揉めるよりなくて揉める方が多いといわれています。
――なるほど。それは確かに遺言が必要ですね。
斉藤:それと、相続関係で特に注意すべきは「事実婚」のケースです。
たとえば事実婚の相手が突然死した場合、何十年一緒にいた相手であっても内縁関係の場合は相続を受けられません。
だから、奥さんが働いていなくて、稼ぎ手だった内縁の夫が突然死してしまって、ユイというような場合、財産は法定相続人に行ってしまいますから家の名義が故人だった場合は追い出されてしまうかもしれませんし、故人の口座に貯金をまとめていたとしたら凍結されて引き出せなくなりますから、路頭に迷ってしまいます。だから事実婚の場合は年齢に関係なく経済的に自立しておくことと預貯金を分散しておくことが大事です。
――経験のない人だと、葬儀社を選ぶところから苦労しそうです。葬儀社選びについてポイントになるところがありましたら教えていただければと思います。
斉藤:葬儀社については体験者から聞いた方がいいということで、親族に教えてもらうケースが一番多いようです。
ただ、どんな選び方にせよ大事なのは、必ず2社以上の見積もりを取ることです。葬儀社によっては「葬儀一式でいくら」というようなことを言いつつ、そこに含まれないサービスがあって、葬儀が終わった後で見積もりになかった請求があったりしますから、可能な限り正確に見積もりをとることです。
病院では、遺体を長くは置いてくれずに「すぐに搬送してください」と告げられます。数時間から、長くて半日くらいで、遺体を搬出させなければなりません。ただ、焦る必要はなくて、葬儀社を決められていないのなら、病院に勧められた葬儀社に遺体の搬送だけを頼んで自宅や遺体専用の安置所などに運んでもらって、それから葬儀を依頼する葬儀社を選べばいいのです。今はドライアイスやエンバーミングという処置もあり、遺体はすぐには傷まないので、ある程度の時間をかけて検討して、故人らしい葬儀をすることが可能です。
――最後になりますが読者の方々にメッセージやアドバイスをいただければと思います。
斉藤:いざという時にどんなことが起きて、何をしなければいけないのかを知っておくことで、気持ちの持ちようが変わりますし、あわてずに済みます。
それと、繰り返しになりますが、家族と「自分が死んだ時の話」をしておくべきです。実際に死を前にしてしまったらこういう話はできませんから、元気なうちにこそ話し合っていただきたいと思います。そういうことを話せる人がいないなら、生前準備として死んだ時のことを決めておくことが大事です。
死ぬ時というのは舞台でいうならエンディングですから、自分らしい舞台を演出して人生の幕引きをしたいものです。そのためには元気に生きている時から決めるべきことを決めて準備しておく必要があります。今は、自分の生と死をデザインできる時代であり、しなければいけない時代なのです。中高年の方々だけでなく、これから親を看取っていく若い方にも、「家族が亡くなった時」のことを考えて、備えをしておいていただきたいと思います。
(新刊JP編集部)
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