警視庁のまとめでは、平成26年の「特殊詐欺」被害総額は、約559億4,000万円と過去最悪!なんと年末ジャンボ宝くじ1等(5億円)が111回当たっても満たない金額です…(ここでいう「特殊詐欺」とは、オレオレ、架空請求、融資保証金、還付金等、振り込め類似詐欺のこと)。日頃からテレビや新聞では、いやというほど詐欺被害の情報は入ってくるというのに、どうして人はダマされてしまうのでしょうか?
今回、新刊JP編集部では、“騙しの現場に突撃潜入”してその手口を探るプロフェッショナル、悪徳商法コラムニストの多田文明さんに直撃!
前回のインタビューでは、最新の詐欺の手口と、なぜ人はわかっていてもダマされてしまうかを教えてもらいました。今回は多田さんがこれまでの突撃潜入取材の中で体験したあれこれを伺って行こうと思います。
◆詐欺業者の手口を明かしていく方法論
――後半は、“騙しの現場”に潜入取材するうえでのお話を聞いていこうと思います。どのように詐欺業者の手口を明かしていくんですか?
多田さん(以下敬称略):まずは受け身になることですね。詐欺業者はこちら側を騙せるかどうか最初の段階で見極めてくるので、わざと騙されやすそうな雰囲気を作って「はいはい、ああそうなんですか」と、ずっと聞き役に回っています。人によっては結論の見えないことを30分も1時間もダラダラ話してきたりしてイライラするんですが、そういうときも「ボクは騙されやすいですよお」という雰囲気を出していないといけないのでむずかしいんですよ(笑)
――“いいカモ”を演じて詐欺の手口を引き出していくんですか。
多田:そうです。ただ困ったもので、最近の詐欺は少額でも払わないと、その先がわからないということがあるんですよ。だから囮ではないけど、騙されたふりをして少しくらいはお金を払わないといけませんね。そうしないと、その先の詐欺の手口がわからないので。
――そういうとき、だいたいいくらくらい払うんですか?
多田:まあ数千円から、多くても2~3万円かなあ。
――今までで一番高額になった支払い金額はどのくらいですか?
多田:それでも3万円くらいですね。でも、本気で騙されたっていうのは15万とか50万とかありましたけど。
――えっ!?本気で騙されたとういことですか?
多田:過去には何度かあるんですよ。元々は騙されてきた体験をベースに、途中から潜入を始めているので。
――ど、どういう騙しの手口だったんですか?
多田:必ず結婚できる結婚相談所(50万円)とか、絶対デビューできる芸能事務所(15万円)とかですね。今となっては一体どこまでが嘘だったのか分からないけど、今思えば詐欺的勧誘だったのかなと思いますね。
――あの…失礼を承知で聞きますが、「絶対デビューできる芸能事務所」ってもしかしてデビューしたいと思っていたのですか?
多田:人生って何が起こるか、わかりませんよね。もしかして、この事務所に入って、芸能界へデビューすれば、さほどルックスのよくない自分でも、万が一のことが起こって、一流スターへの道が開けるのではないかという、甘い夢を抱いていましたね。
――そんなことがあったんですか…。潜入取材は、「詐欺」だとわかった上でのことだとは思いますが、「これ以上の潜入は危険なんじゃないか」と怖くなることはないんですか?
多田:表面上は詐欺業者も「いい会社」に見せているので、そのあたりは大丈夫ですね。怒鳴られたり、恫喝されたりすることはありますけど、手をあげるような詐欺集団はいないです。というのも、万が一警察沙汰にでもなったら、たった一人の客とのトラブルのせいで集金組織としての機能がストップしてしまいますからね。それよりも、私以外の人を一人でも多く騙せた方が、100万、200万とどんどん稼げるので、そちらを優先させます。1人だけのためにそこまでのリスクは彼らもとらないです。
――潜入取材で手口を公開したりして、業者から報復があったりはしないんですか?
多田:それもないですね。
――TVやメディアに顔や声が出回ると、潜入しづらくなりませんか?
多田:それはあります。もうむずかしいですね。やるとしても電話くらいかな。以前はマスクをして潜入してましたけど、気づかれたのか「マスクとれ」なんて言われたりしてね。それに、無言のまま、じっとガン見され続けられることもよくありました。カルト的な思想団体に潜入したこともあるんですけど、どこかで見たことがあるからか、信者の人たちが「夢(祈り)であなたを見た!」「これはデジャブだ!」なんて言って、体中を摩ってハンドパワーをいつまでも送ってくるんですよ。もうめんどくさいし、でも、帰れない(笑)
◆ ◆ ◆
次回は、被害額が数千万円にも上るケースもあるという出会い系詐欺の手口や、詐欺商法から身を守る術を伺っていきます。
(聞き手:新刊JP編集部 高原健太)
■多田文明さんプロフィール
詐欺・悪質商法評論家、潜入ルポライター。詐欺の現場への潜入数は100ヶ所以上にのぼる。詐欺師の手口や心理状態、マインドコントロールの手法やカルト事情などにも精通している。新刊に『「絶対ダマされない人」ほどダマされる』(講談社/刊)。
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