警視庁のまとめでは、平成26年の「特殊詐欺」被害総額は、約559億4,000万円と過去最悪を記録!年末ジャンボ宝くじ1等(5億円)が111回当たっても満たない金額です(ここでいう「特殊詐欺」とは、オレオレ、架空請求、融資保証金、還付金等、振り込め類似詐欺のこと)。日頃からテレビや新聞では、イヤというほど詐欺被害の情報は入ってきているのに、どうして人はダマされてしまうのでしょうか?
今回、新刊JP編集部では、“騙しの現場に突撃潜入”してその手口を探るプロフェッショナル、悪徳商法コラムニストの多田文明さんに直撃!最新の詐欺の手口と、なぜ人はわかっていてもダマされてしまうか教えてもらいました。
◆最近の詐欺業者は“しっぽ”をなかなか見せない!
――さっそくですが、詐欺を行う人たちは時代の変化にあわせて次々と手口を変えてきているそうですね。最新の手口はどのようになってきているのでしょうか?
多田さん(以下敬称略):昔は潜入するとすぐに「あ、これは詐欺業者だな」と気づけたんですけど、最近の詐欺はすぐに詐欺だと見抜けなくなってきています。
――えっ!多田さんでも見抜けないなんて、相当やり手の詐欺ヤローですね!?
多田:詐欺の手口もビジネスのように改善・効率化がすすんで、確実に騙せる人から搾り取るやり口になってきています。だからまずは、“騙せる見込みがあるか”を見極めながら、段階的にアプローチしてくるんですね。最初の段階では詐欺かどうかわからなくて、気づいたら引き込まれているというケースも増えています。
――詐欺集団に“値踏み”されてしまうなんてムカつきますね。段階的にアプローチされるというのは、具体的にはどのような感じなんですか?
多田:たとえば個人情報を探ることから始まります。最近はマイナンバー制度が話題ですが、政府や団体などを謳って「マイナンバーに関するアンケートです」というような電話をしてくるんです。それで、「ひとり暮らしですか?」「銀行口座はどちらにお持ちですか?」といった個人情報に関する質問にすんなり答えてしまう人は、詐欺業者からすると「騙しやすい人」になります。詐欺集団が持っている大量の名簿データの中から、「スムーズに騙せる人」を選別しているわけです。
◆「コイツは騙せる!」と思われると、いくらでも搾り取られる!
――なるほど…。「騙しやすい人名簿」に載ってしまうなんて気持ち悪いし、考えてみれば、次々と詐欺の魔の手がのびてくると思うととても怖いことですね。
多田:そうですね。昔は、企てていた詐欺で金を騙し取ったら次へ、騙し取ったらまた次へといく手口でしたが、最近は、一度「こいつは騙せるぞ」と狙われた人が詐欺だと気づくまでずっと取られ続けますね。それこそ6回でも、7回でも狙われます。相手の事情に合わせて詐欺をコーディネートするので、私は“オーダーメイド詐欺”と呼んでいます。
――オーダーメイド詐欺ですか。個人にオーダーメイドされていて、しかも何度も狙われる手口だと、被害額も相当なものになるのではないですか?
多田:そうですね。被害額でいうと、数千万円までいくケースもあります。
――す、数千万?!そんな額いったいどうやって払わせるんですか?!
多田:振込め詐欺だったり投資詐欺だったり、手口は様々ですが、投資系の詐欺は高額化しやすい傾向があります。「未公開株を買いませんか?」とか、「老人ホームの入居権を買いませんか?」といった例ですね。
老人ホームの入居権に関する詐欺では、「お金はこちらで払うので、入居したいけど入れない人のために名義だけ貸してほしい」などと引き込んでおいて、あとで別のところから「名義貸しは犯罪だ」などと脅して金をゆすり取ろうとするケースもあります。
――お金をたくさん持っている人を騙すケースは、当然被害額も多くなるわけですね。老人ホームの入居問題もそうですが、社会的な問題に根付いた詐欺はいつの時代も必ず被害者が出てしまいますね。
多田:最初に電話を掛けたときに、まずは相手の興味を引かなければならないので、注目の話題を出して引き込んでいくのでしょうね。社会に根付いた問題というと、今だと「マイナンバー制度」も注意しなければならない話題ですね。
◆「マイナンバー制度詐欺」は、知識差を利用した詐欺が横行!!
――早くもマイナンバー詐欺の被害が出てしまいましたが、一体どういう手口なのでしょうか?
多田:マイナンバーの詐欺で気を付けなければならないのは、まだ制度がよく分からないという人が多い状態なので、あることないこと言われたときに「ああそうなんだ」なんて疑うことなく信じてしまわないことですね。
たとえば、市役所などの公的機関を装って電話をかけ、「マイナンバー制度の運用にあたっての必要事項です」と言って、銀行口座番号や暗証番号を聞き出そうとする手口や、「マイナンバーの手続きは終わりましたか?皆さんもう終わってますよ。手続きをしてないと法律に違反するので罰せられます。今すぐお金を払って手続きしてください」とお金を騙し取ろうとするケースです。
――新しい制度に不安を持っている人が多い中、知識や情報が足りてないところを狙って騙そうとしてくるんですね。
多田:今後ますます増えてくるかもしれないですね。マイナンバーを銀行口座に紐づけするとか、年金に紐づけするといったことが予定されていますが、どれもまだ決まっていないことです。それを詐欺師が勝手に「決まりましたので」と言って、騙そうとしてくる可能性は十分考えられます。
――多田さんの新刊は、『「絶対ダマされない人」ほどダマされる』というタイトルですが、ダマされない人ほど騙されるというのはどういう意味なんでしょうか?
多田:騙された人はみんな「まさか自分が騙されると思わなかった」と言うんですよ。たいがいの人は、自分はこれまで騙されなかったから、今後も大丈夫と思い込み、心が無防備な状態になってしまっている。手口は多種多様で日々進化しているにもかかわらずです。しかも今の詐欺は、事前に個人情報を入手して、その人に合わせたオーダーメイドの手口で騙してくる傾向がありますので、「自分には関係ないもの」と考えていたら、かなり危ないですね。
――特に騙されやすい人の特徴や、置かれている環境をいくつか挙げるとするとどういうものですか?
多田:相手の話に受け身になりやすい人、文句を言わない人、反論しない人は、騙されやすいと言えますね。「イエスセット」と言って、「はい(Yes)」を繰り返すことで、断りにくくなってしまうんですよ。そういう意味では、何でもかんでも「それはなんだ?」と聞いてくるようなめんどくさい人ほど騙されにくいと言えるでしょうね。
――なるほど!少しでも違和感を覚えたら、指摘するのがいいんですね。
多田:そうです。それからまわりに相談できる人が少ない人も危険ですね。詐欺師はターゲットを孤立させようとするんですよ。周りには相談させず、自分にだけ相談させて、依存させようとしてくるので、そうなってしまったら大変危険です。何かあった時に相談できる人がいないと、冷静に立ち返ることもできなくなってしまいますからね。
逆に、こういう相談をされたときは「騙される奴が悪い」なんて攻めるようなことはぜったい言ってはいけません。ただでさえ詐欺にあって自己嫌悪に苦しんでいるので、追い詰めることになってしまいますからね。
◆ ◆ ◆
次回は、多田さんが突撃潜入取材の中で体験したことについて伺っていきます!
(聞き手:新刊JP編集部 高原健太)
■多田文明さんプロフィール
詐欺・悪質商法評論家、潜入ルポライター。詐欺の現場への潜入数は100ヶ所以上にのぼる。詐欺師の手口や心理状態、マインドコントロールの手法やカルト事情などにも精通している。新刊に『「絶対ダマされない人」ほどダマされる』(講談社/刊)。
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