『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞を受賞した桜木紫乃さん。ゴールデンボンバーの熱烈なファンであり、直木賞受賞の会見には鬼龍院翔さんが愛用しているタミヤのロゴ入りTシャツを着用して登場したことも話題となった。
そんな桜木さんの新作『霧 ウラル』(小学館/刊)はとても激しい作品だ。
物語の舞台は、北海道最東端に位置する国境の町・根室。戦後、根室の復興に尽力を尽くした地元最大手の水産加工会社・河之辺水産の社長には3人の娘がいる。長女・智鶴は政界入りを目指す運輸会社の御曹司に嫁ぎ、三女・早苗は金貸しの次男を養子にして実家を継ぐことになっている。そして、主人公の次女・珠生はヤクザの姐となる。
生家の河之辺家は、珠生にとって面倒な家だった。姉と妹に挟まれた自分の居場所は、自分で見つけるしかない。生きる理由も自分で考える。言われたといおりになどしないしできない。珠生が欲していたのは、きれいな服より磨かれた靴より、自分の意思だった。
15で実家を飛び出し、料亭「喜楽楼」で芸者をしていた珠生は相羽重之と出会い、結婚することに。それは、ヤクザの組長の妻になるということだった。相羽は、三浦水産から独立し、相羽組を立ち上げる。表向きは土建屋だが、根室と海峡の汚れ仕事を一手に引き受ける新興勢力となる。
早苗と婚約している次男の実家である杉原家は、根室を動かす頭取一族。そして、智鶴が嫁いだ大旗運輸、相羽組、3姉妹の実家である河之辺水産。根室という町で、それぞれの思惑が交錯し、関係を持っていく。
昭和41年の国政選挙で、智鶴の夫・大旗善司は、道東の票をまとめ初当選を果たすが、選挙戦を裏から支えたのは、国境の海で汚れ金をかき集めた相羽組組長の重之だった。
桜木版『ゴッドファーザー』であり、桜木版『極道の妻たち』であり、桜木版『宋家の三姉妹』であるという本作。担当編集者によると、「楽しいのか苦しいのか分からないところまでお互いを突き詰めあい、泣き笑いという領域に辿り着いた」のだという。
戦後の混乱から復興を果たし、高度成長を続ける日本。その北東の外れにある町で重なり合う人間たちの物語に、最後まで目を背けることはできないだろう。桜木節を思う存分楽しめる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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