何か法律トラブルに巻き込まれそうになったとき、あなたには気軽に相談できる弁護士の知り合いはいますか? 以前に比べれば身近な存在になったとはいえ、知り合いの弁護士もおらず、いざというとき、どのように行動すればいいのか分からない人は少なくないでしょう。
『頼る力: 99%のトラブルが解決!かかりつけの法律相談所へ』(合同フォレスト/刊)の著者である吉田章美さんは夫が主宰する弁護士事務所の支配人を務めています。日々、さまざまな法律相談に乗るなかで、「もっと早く相談に来ていれば、ここまで大ごとにならずにすんだのに…」と実感し、かかりつけの歯医者を持つような感覚で、「かかりつけの弁護士」を持つことを推奨しています。
今回、新刊JP編集部は吉田さんにインタビューをおこない、自分に合った弁護士の探し方などを中心にお話をうかがいました。今回はその後編です。
――本書では、相談者が弁護士に上手に頼るために、「相談前に揃えておきたい4つのもの」として、弁護士への質問メモ、時間経緯のメモ、人間関係図、証拠になりそうなものを挙げていますが、とくに重要なものは何でしょうか。
吉田:「証拠」ですね。たとえば、旦那さんと別れたがっている奥さんが相談に来たとしましょう。それで「夫のことが嫌いだから離婚したい」と感情的にいわれても、こちらとしては何もできないんですよ。裁判で「言ったもん勝ち」がまかり通ってしまったら、おかしな話になってしまいますから。
「夫が不倫しているかもしれない」ということなら、不倫したことを示す証拠をつかまなければいけない。電話やメールの履歴、写真など、どんなものでも証拠になり得ます。もし不倫の可能性を疑うなら、まずはそういった証拠を集めることから始めましょうとお話させていただくことが多いですね。
――では、探偵に頼んででも証拠を集めてきたほうが有利なのですか?
吉田:たしかに、探偵に頼まれる方はいらっしゃいますし、証拠を集めた上で相談に行くのが理想形ではあります。ただくどいようですが、悩みがあるなら何も用意できていなくてもまずは相談に来ていただきたいですね。相談内容を聞いた上で「それじゃあ、この書類とあの書類を用意してきてください」という話もできますし、戸籍謄本や登記簿謄本など、ものによってはこちらで揃えられる証拠もあります。
――先ほど「できるだけ経験豊富な弁護士を」というお話もありましたが、分野によって経験値が求められるものとそうでないものはあるのでしょうか?
吉田:それはあります。たとえば、借金問題は比較的単純です。新人の弁護士でも上司から手順さえ教われば、ひとりで対応できるでしょう。むずかしいのは相続問題ですね。
――相続問題はどんな点がむずかしいのでしょうか?
吉田:案件によって、問題がいくらでも複雑化するところです。
たとえば、相続される財産がどれくらいなのかを確定させる必要があります。土地、建物、預金通帳…財産にかかわる情報をすべて整理して、相続人が亡くなった時点でどれだけ財産を持っていたのかをはっきりさせます。
またこの作業と同時並行で、相続人の人数を確定させるために、相続人調査をしなければなりません。ひととおりの相続手続きを終えたあとで非摘出子の存在があきらかになったら、もういちど初めから財産分与をやり直さなくてはならないので。
さらには、もし生前贈与を受けている相続人がいて、そのときもらった額が「ちょっとした生活費のレベル」を超えて数百万に達するようでしたら、死後に財産分与をする際、生前贈与分を差し引かなければなりません。
――「法律はむずかしいもの」と固定的なイメージを持っている人もいると思います。吉田さんは弁護士事務所で働きはじめてから、法律に対するイメージが変わりましたか?
吉田:弁護士事務所で働くまで、法律に対してどちらかというとネガティブなイメージを持っていました。でもこの仕事に携わるようになり、日々、離婚や金銭トラブル、相続や交通事故など、さまざまな形で「助けて!」と頼ってきた人を弁護士が助けるところを目の当たりにするうちに、法律へのイメージはだんだんポジティブなものへと変わっていきました。
――本書で「弁護士の本来の仕事は『弱者保護』だ」と書かれていたのが印象的でした。
吉田:もしあなたや周囲の人が、人権を不当に侵害されるような状況に置かれているなら弁護士の知恵を借りて、ご自身の権利をきちんと主張してほしい。自分の貴重な人生を守るためには、気休めの対処療法ではなく、法律でカタをつけてくれる弁護士に頼るのが最も有効な方法であることを知ってほしいです。
――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
吉田:これまでの繰り返しになりますが、ご自分の人生を大切にするという意味で、何か悩みが出てきたら、お気楽に弁護士に相談していただきたいですね。法律のプロに相談しなかったばかりに、あとで泥沼にハマってしまって、悲惨な人生を送らないためにも。
(了)
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