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不況にあえぐ出版業界を変えるか 「時限再販」を追う(前)

 『出口汪の論理的に話す力が身につく本』(出 口汪/著、SBクリエイティブ/刊)は、東進予備校の講師であり現代文のカリスマといわれる出口汪氏が、論理的に話すためのテクニックを教えてくれる一 冊。社会人3年目のゆいちゃんと出口先生の会話形式で進んでいく本書は、「どうしてあなたの話は伝わらないのか」という、口下手には少しキツめの指摘から はじまる。

 話が伝わらないのは、聞き手のせいではなく、自分のせいであるということは多くの人が認識していることだろう。しかし、どう直せばいいのかが分からない。本書はその直し方を丁寧に分かりやすく教えてくれる。
  ビジネスシーンだけでなく、夫婦や恋人、友人などの日常的な人間関係においても有効だ。例えば、「他者意識」が欠けていると話が伝わらないという出口先生 の指摘に耳が痛くなる人も多いはず。「主観」と「客観」を混同し、意見を押しつけてしまったり、話を膨らませ過ぎて逆に不信感を持たれてしまったりという ことは身に覚えがある人が多いはずだ。
 こうした内容も、この本の特筆すべき特徴の一つなのだが、ここではそれ以外の部分に着目したい。

■この本にある、とても小さく表示された大きな特徴
 この『出口汪の論理的に話す力が身につく本』は、2012年6月に発行された『出口汪の論理的に話す技術』(SBクリエイティブ/刊)を改題・再編集したもので、この再発売に合わせて大きさも文庫判から四六判へと“大きく”なっている。
 そして表示こそ小さいが、非常に大きな特徴がある。定価の下にある、○に時、そして「2015年6月末日まで」という文字。

 見落としてしまいそうなくらい小さなこの文字列は一体なんだろうか? 出版元のSBクリエイティブに話を聞いてみたところ、「時限再販マークです」という返答があった。

 「時限再販」とは一体なにか? 文化や言論の保護の見地から、書籍や雑誌のほとんどは再販売価格維持制度(通称:再販制度)によって小売店が自由に価格を決めることができない、つまりいついかなる時でも定価で売ることが義務付けられている。
 では、誰が書籍を「再販商品」として卸しているかというと、これは出版元になる出版社だ。例えば一部の出版社では、再販制度を適用しない出版物を刊行することもある。これは「責任販売制」と呼ばれるものにあたり、定期購読によって割引される雑誌などは、それにあたる。

 この「時限再販」は、その期間中は定価で売らなければいけないが、その期間を抜ければ書店などの小売店が自由に値段を決められるという制度だ。

「雑誌ではありますが、単行本ではまずほとんど見られない制度です。SBクリエイティブとしてもこの本が初めての試みになります。本書が文庫としてヒットした本の再編集版だったこともあり、柔軟に対応できたという背景もあります」(SBクリエイティブ担当者)

  『出口汪の論理的に話す力が身につく本』は2015年3月に刊行され、6月末日をもって再販期間から抜けるが、話を聞いた4月の時点で重版がかかっており 「売れ行きは好調です」とのこと。7月以降、値引きをする書店が増えるのでは? という質問については「値引きはあまりされないように思います。そもそも この制度の情報があまり知られていないこともあるので」と返ってきた。

 SBクリエイティブによれば、他の出版社も慎重な姿勢が取られているものの、時限再販の書籍は増えているという。一体、どうして?
 新刊JP編集部が取材を進めていったところ、「時限再販」のキーマンに話を聞くことができた。次回は、書籍による「時限再販」が生まれたきっかけや現状についてのレポートをお送りする。
(金井元貴/新刊JP編集部)

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『出口汪の論理的に話す力が身につく本』

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