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芥川賞候補「惑星」の裏側 上田岳弘インタビュー(2)

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 第64回の今回は、最新作「惑星」が第152回芥川龍之介賞の候補に挙げられた上田岳弘さんです。
 デビュー作の「太陽」、そして「惑星」と、既存の文学の枠組みを広げる野心作を発表している上田さんですが、そのアイデアの源はどこにあるのでしょうか。
 この二作品が収められた初の単行本『太陽・惑星』(新潮社/刊)について、そしてこれまでの読書歴や今後の展望についてと併せて、上田さんにお話をうかがいました。第二回の今回は、芥川賞候補となった「惑星」について。

■「惑星ソラリス自体の内面描写」をやった小説
―つづいて第152回芥川賞の候補になった「惑星」についてですが、こちらは「太陽」がスタート地点にあって、そこからいかに世界を広げていくかということを考えて書かれたことが読み取れます。

上田:「太陽」が新潮新人賞を受賞したのが2013年9月4日だったんですけど、その直後の9月7日に2020年の夏季オリンピックの東京開催が決まるという出来事がありました。これはちょうどいいというのと、「太陽」で「金」について触れたので、「金といえば金メダル」ということで、次の作品ではオリンピックのことを書こう、となったんです。

―「惑星」も「太陽」と同様、ぼんやりとしたさまざまなイメージがつながってできあがったのでしょうか。

上田:そうですね。『惑星ソラリス』っていう映画がありますが、これは何かものを考えているかもしれない惑星の話で、探査に行った人たちが、この惑星が見せるビジョンによって混乱していってしまいます。その中に、惑星を覆う海が実は大きな脳なんじゃないかという話が出てくるのですが、それを見た時に、地球の将来はもしかしたらこんな感じなんじゃないかとピンとくるものがありました。それと同時に、「惑星ソラリス自体の内面描写」をやった小説というのは存在しないのではないか、物語のなかでそれができればおもしろいと思ったんです。
先ほどのオリンピックの話と併せて、こういったイメージの断片が組み合わさって小説になっていきました。

―ものを考える惑星の内面描写を、「ソラリス」から「地球」に置き換えてやってみた。

上田:そうです。惑星そのものが一つの生命体であり脳構造であるとしたら、日々どんなことを考えているのか。もしかしたら、ずっと何かをシミュレーションしてヒマを潰しているのかもしれないなと。自分の中でピンときたアイデアを揉みほぐしていくと、そういう方向につながっていきました。

―「太陽」も「惑星」も、純文学でありながら斬新な手法によって書かれています。こういった手法を考える時にどのようなアプローチをとっていますか?

上田:「これはまず無理だろうな」とか、「こんなことをやっちゃいけないかな」ということを見つけ出して、それに挑戦する感じです。「どうやったらそのアイデアを実現させられるか」、というよりは、「どうやったら破綻するか」を考えて、それをギリギリ読めるレベルにまで持っていくためにはどうするか、という風に展開させていきます。

―SFとの近さがよく指摘されていますが、こういったジャンルからの影響ということについてはいかがでしょうか。

上田:SF作品を専門に読んでいたということはないのですが、現代の小説で何か新しいことをしようと思った時に、どうしても過去より未来の方に気持ちが向かうというのはありました。
そういう意味では、単純にSFというジャンルありきではなく、未来のことについて書こうとしたら自然にSFが絡んできたという方が近いと思います。

―ところで、「惑星」にはスタンリー・ワーカーという、冷徹な経営者が登場します。会社では役員をされているという上田さんですが、職場では彼のような感じですか?

上田:いや、僕は全然……(笑)。ぬるいですし、役員といっても怒られることだってあります。
ベンチャーで、人もお金も時間も限られたなかでやっていますから、スタンリー・ワーカーの会社みたいにリソースがたっぷりあって、やりたいことをどんどんやれたらいいよなあと思いますね。

最終回「小説でやりにくいこと、できないとされていることをやっていきたい」 につづく

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