仕事でも、家庭でも、イライラすること、腹立たしいことってありますよね?
でも、そのたびに怒っていたら体が持ちませんし、かといって溜めこむのもストレスになります。
なんとか、上手に怒りやイライラと付き合いたいものですが、これは決して不可能ではありません。『イラッとしない思考術』(ベストセラーズ/刊)の著者、安藤俊介さんによると、怒りも苛立ちもトレーニングによってコントロールは可能なのだとか。では、そのトレーニングとはどのようなものなのか、安藤さんに聞いてみました。今回は後編です。
――本書には、日常生活のさまざまな場面に潜む「イライラ」への対処法が書かれています。やはり、仕事はイライラすることがたくさんあるものですが、取引先など社外の人に対してイライラした時はどんな対処法が有効ですか?
安藤:これは「行動のコントロール」にあたりますね。物事には「自分で変えられること」と「自分では変えられないもの」とあって、それぞれ「重要なこと」と「重要でないこと」がありますから、「重要かつ自分で変えられること」「重要だけど自分で変えられないこと」「重要でなくて、自分で変えられること」「重要ではないし、自分で変えられないこと」の4つに分類できるわけです。
これでいうと、取引先など社外の人へのイライラというのは、ほとんどの場合「重要だけど自分で変えられないこと」にあたります。だから、もう受け入れるしかなくて、そのうえで自分に取りうる選択肢を考えないといけません。
こういう時にやってしまいがちなのが、「取引先の担当者が変わらないかな」とか「あの人いなくならないかな」と祈ることなのですが、これは逆効果です。かえってそのことに考えがとらわれてしまう。
――怒りやすい、イライラしやすいと悩む人がいる一方で、怒れない自分を変えたいと思っている人もいます。怒るべき時にきちんと怒れるようになるためにはどうすればいいのでしょうか。
安藤:これは、まず思い込みを外すことでしょうね。
日本では、家庭でも学校でも「怒ってはいけない」と教えられますから、「怒ることはダメで、恥ずかしいこと」という思い込みが根深くしみついていて、怒りをなかなかうまく表現できない人が多いんです。でも、実際は怒ることって、人間関係を悪くすることではありませんし、嫌われることでもありません。この思い込みを少しずつ外していくのが、適切に怒れるようになるための第一歩だといえます。
――怒り方の「さじ加減」も難しいところです。
安藤:そうですね。一番いけないのは、怒る基準が一定ではなく、「機嫌次第」になってしまうことです。
ある日は遅刻しても怒られなくて、ある日は5分前に来ても遅いと怒られるというのでは、怒られる方はなぜ怒られているのかがわかりませんし、「結局、機嫌次第なんだな」となってしまいます。
ですから「定刻に間に合ったのなら、どんなにギリギリでも許す。でも定刻から1分でも遅れたら怒る」という風に自分のなかでルールを決めておくことが、上手に怒るカギになります。
――家庭にもイライラの種があります。私も家庭内でよく口喧嘩をしてしまうのですが、きっかけはささいなことです。ささいなことから大きな喧嘩に発展させないためにできることはありますか?
安藤:私たちが怒る理由って、すごく単純化して言ってしまうと「自分が信じている“こうあるべき”ということが裏切られた」ことなんですよね。
今のお話でいえば、「妻はこうあるべき」あるいは「こうあってほしい」というのがいちいち裏切られるから腹が立つわけです。これは相手も同じでしょう。
だとすると、自分と相手がそれぞれにどういう「こうあるべき」を持っているかというのを知っておくことが大事です。そのうえで互いの「こうあるべき」の程度を、できる限り合わせておくことですね。
たとえば、「家事は夫婦で協力してやる」ということについては双方同意していたとしても、「どれくらいやればいいのか」という程度は、おそらく夫と妻では認識が違うでしょう。これでは、やはりもめてしまうわけで、お互いどれくらい家事をやるかということをすり合わせて必要があるんです。
――第5章は普遍的な内容で、心に留めておきたいことばかりです。「イライラしない思考法」ができる人というのは、もともと性格的に温厚なのではないかという気もするのですが、こういう思考法は後天的に身につけることはできるものなのでしょうか。
安藤:もちろん身につきます。持って生まれた性格も大きいのですが、後天的な要素もすごく大きいと思います。
私たちが生活のなかで歩いたり話したり感情を表現したり、さまざまなことをしますが、これらは全部後天的に学んだものですよね。
特に感情表現の部分は基本的に親のコピーですから、後からトレーニングすれば「イライラしにくい思考」に変えていくことができます。
――「怒り」によって集中力を乱される人がいる一方で、「怒り」をエネルギーに変えられる人もいます。両者のちがいはどんなところにあるのでしょうか。
安藤:これは感情の捉え方のお話になります。
集中力を乱されてパフォーマンスが下がっている時は、怒りや不安といったマイナスの感情に支配されていて、逆に集中できてパフォーマンスが上がっている時は、心の中が喜びや楽しさといったプラスの感情に満たされると考えている人が多いのですが、これはまちがいです。
心がプラスの感情で満たされてしまうと、人はリラックスしきってしまいますから、むしろパフォーマンスは落ちます。「哀しみ」や「怒り」といった感情をうまく使っていかないと、パフォーマンスは上がっていかないんです。
その意味では、怒りは人間にとってごくごく自然な感情なので「マイナスの感情」と決めつけないことが大事だともいえます。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
安藤:イライラしやすい人も含めて、ほとんどの人は「自分の感情をコントロールする」という発想を持っていません。
ただ、感情はトレーニングさえすれば、どんな人でもある程度はコントロールできるようになります。さっきの話ではないですが「怒り」というマイナスの感情も上手に扱えるようになり、自分を動かすエネルギーにしたり、モチベーションにできるようになるんです。
だから、まずは「自分の感情は自分でコントロールできる」「自分の感情は自分で選べる」ということを知っていただきたいです。そのうえでトレーニングをしていけば、誰かが悪いとか、世の中が悪いとか、怒りを何かにぶつける必要はなくなります。そうなれば、人生はもっと豊かに楽しくなっていきます。
(新刊JP編集部)
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