出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第58回となる今回は、デビュー作「べしみ」を含む連作短編集『甘いお菓子は食べません』(新潮社/刊)を刊行した、田中兆子さんが登場!
結婚、セックス、夫婦関係などなど、様々なことに悩み、苦しみながら生きる40代の女性たちを、時に哀しく、時にコミカルに描いたこの短編集は、女性なら誰でも他人事とは思えないはず。
今回は田中さんにインタビュー。執筆時のエピソードや、込められた思いなど、この作品の裏側について語っていただきました。
(新刊JP編集部)
■「小説演習」で最低点をつけられた大学時代
―この短編集を通じて、内面に食い込むような描写が特徴的でした。作風に影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?
田中:単純に好きな作家さんということで言えば、古井由吉さんや金井美恵子さんなど、「何を書くか」ではなく「どう書くか」にこだわりを持っている作家さんが好きなのですが、それぞれに唯一無二の描写を持っていらっしゃるので、影響とか真似をするという次元ではありません。
ただ、「べしみ」を書いた時、富岡多恵子さんのことは少しだけ念頭にありました。作品そのものへの影響というよりは、富岡さんの書き手のナルシシズムに陥らない客観性にすごく惹かれているんです。自分もそういう作家でいたいと思いますね。
―田中さんのプロフィールを見ると、8年間OLをされていて、現在は専業主婦とありますが、小説を書き始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか?
田中:専業主婦になった当時、お芝居がすごく好きでたくさん観ていたんです。歌舞伎も観ていましたし、小劇場に足を運んだりもしていました。それもあって、最初は戯曲を書いていたのですが、賞に応募しても全く引っ掛かりませんでした。
それが30代くらいで、40代になると、お芝居ってものすごい数の人を巻き込まないといけないし、若いうちじゃないと無理だな、と思い始めて、一人で完結させられる小説を書くようになりました。
―いつか書いてみたいというのは若い頃からあったのでしょうか。
田中:大学の授業に「小説演習」というのがあって、全員小説を書くんですよ。その授業の先生が平岡篤頼さんといって、小川洋子さんや角田光代さんを育てられた方なのですが、その平岡先生に最低点をつけられてしまったんです。それで「ああ、もう私は書いちゃいけないんだな…」と(笑)。そういうことがあったので書きたいとは全然思っていませんでしたね。
―それは学生にはショックですよね。
田中:ショックといえばそうなんですけど、当時はヌーヴォー・ロマンだとか、高橋源一郎さんの作品だとか、筋のないものばかり読んでいて、頭でっかちだったんです。そんな時に書いたものですから、小説の体をなしてなかったと思うんですよ。その前は現代詩ばかり読んでいたので、物語を作るということができていなかったんです。だから、最低点で仕方なかったんじゃないかと今では思っています(笑)。
第三回谷川俊太郎を追いかけて現代詩の世界へ につづく
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