資金ゼロ、人脈もゼロ、英語も話せない。そんな一人の大学生が世界を変えるために立ち上がった。これ以上、地雷で死んでしまう人を増やさないために、過去の傷に悩む“元こども兵”を救うために…。
鬼丸昌也さんは今から13年前、大学在学中にNPO法人テラ・ルネッサンスを立ち上げ、地雷除去や元子ども兵社会復帰の支援活動とともに、年間100回を超える講演などを通して啓発活動も行ってきた。
『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』(扶桑社/刊)は、鬼丸さんの半生とともに人に自分の気持ちを伝える上で大切なことがつづられた、ノンフィクション&ビジネス書。
鬼丸さんへのインタビュー後半は、彼自身の半生についてお話を聞いてきた。活動を続けるバイタリティの源はどこにあるのだろうか?
(新刊JP編集部)
■「変人も突き抜ければ大丈夫。中途半端だから叩かれる」
――鬼丸さんは子どもの頃、だいぶ変った趣味を持っていたとのことですが…。
鬼丸:「在日大使館への資料請求」という趣味ですね(笑)単純に海外のことが知りたかったというのもありますが、もう一つは、周りに自分を認めてもらう手段だったんです。
子どもが自主的に海外の国のことを調べたいと言って大使館に電話をかければ、「すごいね」「偉いね」と言われるじゃないですか。
――自分から学びたいと思ってやっているわけですから、すごいと思いますね。
鬼丸:そういうフィードバックをもらえれば、自分が承認されたように感じられるんです。
もともと社会のことに関心がありましたし、最初は地理が好きで、鉄道が大好きだったので。
――そうだったんですか!
鬼丸:今でも講演の会場に向かうときは、乗りたい鉄道に乗って行くこともあります。例えば、わざわざ長良川鉄道に乗るために遠回りをするとか。これは興奮しますね。そういう意味でも日本全国の講演会場をまわるのは好きです。
――そこから海外への関心につながっていく…のですか?
鬼丸:そうなんですよ。鉄道を通して地理に興味を持って、さらに図書室でアジアやアフリカの独立運動の指導者たちの伝記を読んで、ハマってしまったんです。今はそんなに好きではないですけど、毛沢東にハマっていた時期があって、共産主義思想にかぶれた小学生でした(笑)
――本当ですか!? 小学生が共産主義思想について理解するって難しくないですか?
鬼丸:藤子不二雄Aさんが『劇画毛沢東伝』というマンガを描かれていて、これがすごく面白いんです。子ども心に刺さるものがありまして、そこからインドネシアのスカルノや、フィリピンのラモン・マグサイサイ、インドのジャワハルラール・ネルー、それにガーナのクワメ・エンクルマの伝記などを読んでいました。
――エンクルマの伝記は本書でも「特に印象的だった」と書かれていますよね。でも、当時ですと周囲は「少年ジャンプ」が全盛だったと思いますが。
鬼丸:そうなんですよ。だから、『まじかるタルるートくん』を読みながら、一方でラオス人民民主共和国について調べるみたいな小学生でした(笑)振り幅が広いといえばいいのでしょうか。もともとマンガ家志望だったので、藤子不二雄さんや手塚治虫さんが大好きでした。
――不思議な趣味を持つ少年ですよね…。
鬼丸:でも、変人度が行き過ぎるとバカにされなくなるんですよ。逆に中途半端に変だと、叩かれたり、バカにされたりしてしまう。
夢中でやっている人を本気で叩いたり、否定したりする人はいないですよ。僕はそのことを小学生の頃に経験したので、今でもこの活動ができているのだと思います。テラ・ルネッサンスを立ち上げるときも、恥ずかしさは一切ありませんでした。
――今時の言葉でいえば、“根っからのオタク気質”ですよね。突き抜けているオタクというか。
鬼丸:あ、そうかもしれませんね(笑)本に書けばよかったなあ。
――現在に至るまで、それらが線になってつながっているというのはすごいことだと思います。普通ならば、就職で分断されると思うんです。生き方としてかっこいいですよね。
鬼丸:自分の中ではブレブレなんですけどね(笑)ただ、これは教えていただいたことなのですが、人生って目標型と展開型があって、自己啓発書を執筆している方はおそらく目標型が多いと思うんですね。ある目標があって、夢に日付を入れて、逆算していくというやり方です。でも、実際にそれを実行できる人はほんの一握りで、経営者やマネジメント層であっても、ほとんどの人は展開型です。そのときの人や本や言葉や作品との出会いに影響を受けて、人生を進んでいくタイプだと思います。僕自身も実はそうですから。
でも、そういう人でも流されずに生きる方法はあります。その出会いに感謝するんです。僕の場合、制約が多すぎて感謝しなければいけない環境で育ったんです。例えば、高校に通うにも、自動車で最寄りの駅まで連れて行ってもらわないといけない。だから親に感謝ですよね。また、家から一番近いダイエーは自動車で40分。それも誰かに自動車に乗せてもらわなければ行くことができません。子どもの頃、制約だらけだったこともあって、今、自由にできる環境がすごくうれしいんです。
それに、誰かにやってもらわないと自分一人だけでは何もできないから、せめて相手に喜んでもらおうという考えが身に付きます。今でも僕は助手席で寝られないんですよ。運転手から「こいつ、乗せてやっているのに何で寝ているんだ?」と思われたら嫌じゃないですか(笑)だから、話をしたり、眠気覚ましのコーヒーの缶を開けてあげたりします。
――大学進学を機に福岡から関西に移り住んだときはどんな感じでしたか?
鬼丸:大学へ進学するために関西に出てきて、新聞奨学生になって4畳半の部屋を借りたとき、本当にうれしかったですね。制約だらけの中で生きることは、その後にたくさんの希望をもたらすんです。
それを強く感じるのが、発展途上国や被災地の人々です。先週も岩手に行ってきましたが、正直、復興はまだまだ進んでいないように感じます。それでも、一生懸命生きていこうとしている人たちがいます。途上国も、私たちから見れば「可哀想」と思うかもしれないけれど、彼らは自分たちのことを可哀想などと思っていません。彼らは力がある存在で、ただ制約が多いだけなんです。だからこそ、ささやかなことにも喜びを感じられるんですね。
――途上国はまさにそうでしょうね。今までできなかったことができるようになって、もっと頑張ろう、少しでも豊かにしていこうという気概があります。
鬼丸:この本でも、ウガンダの元子ども兵の話を書きましたが、本に書けないような悲惨なエピソードはたくさんあります。けれども、彼らは悲しみや苦しみを知っているからこそ、そこから立ち上がって、前に進もうとしているし、周囲の人を助けようとする姿勢を持つことができるんですね。
苦しみや悲しみがないのが幸せだと思ってしまいがちですが、私はそうは思いません。悲しみや苦しみと付き合える人が幸せな人です。悲しみや苦しみ、悩みを人生のエネルギーにすることができる人が素晴らしいのだと思います。
それを教えてくれたのが、支援現場の人たちで、僕の中にも醜さや汚さがあることを教わりました。正直な話をすると、清廉潔白だったらこの活動はできないですよ。弱さや悩みを抱えることからまず始めないといけないんですから。
――本書5章の「善きことは、カタツムリのはやさで進む」というのは、ガンジーの言葉ですよね。
鬼丸:そうです。これは私が世界で一番好きな言葉です。
組織のマネジメントをしていると、実はなかなか待てないんですよね。何度言っても分かってもらえないし、期待通りの変化もしてもらえない。でも、彼らも変わりたい、成長したいと思っている。
ある経営者の方に、「経営者やマネジメントする立場になったとき、何が一番大事なのか」を聞いたとき、その人はこう言ったんです。「これだけは本気で信じろ。どの部下もお前を成功させようとして頑張っていることを」。これを信じられるかどうかだと言うんです。
人間だから期待通りにいかないことは普通です。そこで相手を信じられるか。信じられるならば、部下を育成することができると言われました。これは社会も同じだな、と。行動を起こせば、カタツムリのはやさでも善い方向に進んでいきます。だから私は「革命」が嫌いなんです。改革や改善、進歩はありますけど、革命はありえない。人間がやっていることですから、徐々に変わっていくものだと思うんです。
――では、『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』をどのような方に読んで欲しいですか?
鬼丸:まずは学生の方々ですね。社会に関わりたい、社会の中で自分の役割を果たしたいと思っている人に読んでほしいです。また、社会人になって3年目までの若いビジネスパーソンにも読んでもらえると嬉しいです。私の年代から見ても、日本はもう過去の栄光を取り戻すことができないと思えてしまいます。人口は減少していきますし、先日ニュースに出ていましたけど、2040年までに自治体の半数が消滅する可能性があるという推計も出ています。そういった過酷な未来が待っているなかで、生き抜く力を持ってほしい。この本が自分の目の前を照らすほのかな明かりになってもらえるとありがたいです。この本を読んで、一歩前に足を踏み出してみようかなと思ってもらえれば幸いです。
――最後に、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
鬼丸:私でも、ささやかですが、社会に何らかの役割を果たすことができてきました。この本ではそのプロセスを書いているので、読んでいただいて、ご自身にも社会に果たす役割があることを感じてほしいです。
あなたにしか変えられない何かがありますし、あなたにしか救えない命があります。自分の役割を放棄することは、あなたが救うはずだった命を放棄するということになります。あなたの手助けを誰かが待っているということを、この本を通して感じてほしいですね。
(了)
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