人生一度でいいから自分の本を出版してみたいと思ったことがある人は多いはず。
でも、「出版」って敷居が高いように思いますよね。
『本を出したい人の教科書』(講談社/刊)は出版プロデューサーとして出版界に30年貢献し、1600冊の商業出版を成功させてきた吉田浩さんが、本を出したい人向けに“どのようにすれば本が出せるか”“どう書けば本が売れるか”を指南する一冊です。
今回のインタビューではそんな吉田さんに知られざる出版界の裏側について直撃。
「いい本」の定義とは? ゴーストライターという存在とは? インタビュー後編をお送りします。
(新刊JP編集部)
■今、世の中を騒がせている「ゴーストライター」について
――吉田さんのもとには、本を出したいという多くの方が訪れると思いますが、その中には困ってしまう人もいるかと思います。そういう方は周りにいますか?
吉田:そうですね。(笑) たくさん、いらっしゃいます。一番よくあるパターンは、私が主催する出版記念パーティーに、分厚い企画書を持ってきて、手当たりしだい編集者に配る方です。これはすごく迷惑なことです。編集者は企画書を粗末に扱えないですよね。また、その場で手渡されてもカバンもないのでとても困ります。
まずは名刺交換をして、「会社あてに企画書を送ってもいいですか?」と聞いたうえで送ってください。企画書の売り込みには、この正しい手順を踏んでほしいです。
――確かに、それは迷惑なことですね。
吉田:ふだんの生活が非常識な人は、それで、全然、かまいません。人と違って、ある程度とんがっていないと、いい本を書くことはできません。
ただ、常識や礼儀は持ち合わせていないと周りが迷惑します。
――話は変わりますが、吉田さんが思う「いい本」の定義について教えていただけますか?
吉田:『本を出したい人の教科書』(講談社)の本の中に書いていますが、「いい本」とは、「読者を幸せになり、著者がもっと幸せになる」。これが定義です。
これはピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』の考え方によるもので、彼の考えを意訳すると「企業のミッションとは、幸せなお客様の創造である」と言っています。
そこから考えると、私は「出版の使命とは、お客様である読者を幸せにすることだ」と思うのです。しかし、本を書く上で一番苦労するのは著者ですよね。だから、私は、著者が一番幸せになってほしいのです。
――ここからは、最近の出版業界のトピックについて吉田さんにお話をうかがえればと思います。まずは、電子書籍ですね。今、AmazonやKindleなどを通して、誰でも自由に出版ができるようになっています。いわゆる「セルフパブリッシング」というものですが、30年間、商業出版のお手伝いをされてきた吉田さんはどのようにお考えですか?
吉田:私が、電子書籍で成功していると思うのは、「ダイレクト出版」だけですね。あの出版社はマーケティングをしっかりしている。でも、その他のほとんどの電子書籍は「電子の海の藻屑」と化していると思います。
紙の出版と比べて圧倒的に信用度が低く、そのクオリティもインターネット上のブログの記事やメルマガの寄せ集めと変わりません。電子書籍は、直接、手にとって、中身をパラパラとめくって見ることができないのもデメリットでしょう。電子書籍は製作費が安いという反面、情報価値の低いものが生まれます。何十万冊、何百万冊、電子書籍が生まれても、情報価値が低いものは売れません。売れないものは「電子の海の藻屑」になると思っています。
――もう一つ、最近「ゴーストライター」という言葉が話題になりました。
佐村河内守氏の場合、自作の曲をゴーストライターが書いていました。また、ホリエモンについてもゴーストライターを雇って小説を書かせたと指摘されたことが話題になりました。
その一連の騒動の中で、ゴーストライターと出版は切っても切れないという話も出てきています。吉田さんはゴーストライターという存在について、どのようにお考えですか?
吉田:出版は、ゴーストライターによって書かれてもいいジャンルと、そうではないジャンルに分かれます。たとえば、ビジネス書はゴーストライターが書いてもいいと思いますし、小説はNGです。その線引きは、「ビジネス」か「芸術」の違いだと思います。
ビジネス書は、著者のノウハウを教える本です。「1次情報」を持っているのは著者であり、ゴーストライターはあくまでその内容を読者に伝えるためにわかりやすく文章を書いてゆきます。著者が自分で学んだノウハウや、語り下ろしや、講演会の内容であれば、ゴーストライターを使ってもまったく問題ないと思います。芸術の場合、その人にしか書けない魂の叫びが作品になるので、そこでだれかに代筆してもらうのは、道義的におかしいですよね。
――ゴーストライターという職業はあまりスポットが浴びない世界ですが、非常に厳しいという話をよく聞きます。
吉田:ゴーストライターの世界も、一握りの「ベストセラーを生み出せる書き手」と、そうでない人たちに大きく分かれています。私は30年間、本づくりをしてきた中で、のべ4500人のスタッフと一緒に仕事をしたのですが、ライターは1000名くらいいました。
しかし、その中で、ベストセラーを書けるライターは30人くらい。残りの970人は、年商200~300万円くらいのとても苦しい生活をしています。
昔、女性ライターさんが私の出版セミナーに来たとき、「今の仕事で一番大切なことは忍耐です」と発言しました。私が「忍耐って、どういうことですか?」と聞くと、「仕事が入ってこないときに、気が狂わないように我慢することです」と言われてびっくりしました。
その女性ライターさんは、2ヶ月も3ヶ月も、ひとつも仕事入ってこないことがあるそうです。そういうときに、正気を保つのは、確かに大変だと思います。
――吉田さんはたくさんの本を読まれていらっしゃいますが、その中でも影響を受けた本を一冊あげるとすると?
吉田:私は童話作家としても活動を続けているのですが、もともとはSF作家になりたかったんです。だから、ロバート・A・ハインラインのSF小説のファンでした。最初に読んだのが『夏への扉』で、とても感動しました。彼の書いた『宇宙の戦士』は、アニメの『ガンダム』の原作になった作品としてよく知られています。
また、安部公房の作品は、高校時代に全部読みました。不条理だけれど、異常に面白いんです。『水中都市・デンドロカカリヤ』という作品が一番のお気に入りです。
――『本を出したい人の教科書』(講談社 1400円)の本を、どのような方に読んで欲しいとお考えですか?
吉田:はい、これから本を出したい方8割、すでに本を出している方2割です。
すでに本を2~3冊出版している方は、自分の本づくりが間違っていないかチェックしてください。
――確かにこの本は、「初めて本を書く人」だけでなく、「2~3冊出したけど売れなかった」という人にとっても読んでもらいたいですね。
ベストセラーになる秘訣がぎっしりと詰まっているので、とても参考になりそうです。
では、最後に、このインタビューを読んでいる読者の方にメッセージをお願いします
吉田:本はだれでも書けるということです。
ほとんどの編集者が「本を出すのは難しい」と言います。
それはある意味では正しいのですが、本を出したい人の権利や夢を最初から否定していることになりますよね。
出版はマイナスがプラスに逆転する唯一の自己表現です。
この本の中にも書きましたが、20年間近くクレーム処理の仕事をしていたおじさんが、自分の仕事のエピソードを本にまとめたところ、60万部くらい売れて、そのおじさんは、自分の仕事に誇りを持てるようになりました。
どんな仕事でも、プラスに逆転する価値が絶対あるんです。
この本は、ベストセラー作家の本田健さんが出版プロデュースしてくれた本です。
本田健さんが、本書の帯で伝えているメッセージはそれが言いたいのです。
「だれの心のなかにも1冊の本が眠っている」のです。
だれでも本は書けます。
本を書いた人は「人生の主人公」です。
本を通して、自分の人生の主人公になってほしいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
(了)
■吉田浩さんよりお知らせ
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