あなたの目の前には4億円の札束がある。そして、その持ち主から「これを全部持って1日逃げ切ったら、お前にこの4億円をやる。どや?」と言われる。あなたはこれを受けるだろうか。
もらえるのは4億円だ。夢を叶えることができるかも知れないし、やりたいことができるかもしれない。それを考えたら1日逃げるくらい…と受けてしまうかもしれない。
堀江貴文氏が社長だった頃のライブドアの社長室にいたことでも知られ、自身も月商1億円のベンチャー企業を立ち上げた渡邊健太郎氏が執筆した『ベンチャーズ☆ハイ』(クレイシア出版/刊)は、渡邊氏の半生をベースにして書かれた小説(フィクション)だ。
本書は学生起業家を志望する主人公の伊部道太郎が、投資家の横田恵三にそう問われるところからはじまる。伊部はこの横田の挑発に「わかった」と答え、4億円を持って逃げようとするのだが……4億円の札束の重さはとんでもないものであり、一人の男性で持ち運ぶことはほぼ不可能。もちろん伊部は逃走に失敗し、途方に暮れる。
そんな中で、近い将来、同じベンチャー企業で共に助け合うことになる仲間たちに出会うのだった。
この物語全体を通して貫かれているのが「なぜ起業をするのか」というテーマだ。
伊部は中学生時代にも一度起業を経験している。そのビジネスは一時的に大きく成長して、親をも超える収入を手にすることになったのだが、競合の参入などもあり次第に下火になっていった。何よりも本人がそのビジネスに心から入り込むことができなかったのだ。
そして大学生となり仲間たちと起業をしても、迷いが途切れることがない。
しかし、起業とはそういうものなのかも知れない。
伊部は山田、斉藤という2人の良き共同経営者に恵まれるものの、3人はそれぞれ違う人間なのだから、完全に同じ方向を向くことは難しい。それでも起業をして、自分たちの力でビジネスを成長させていく楽しみも十分味わうことができる。
資金作りやブレイクの瞬間などは、実体験に基づくものなのでリアリティがある。一方で簡単に人間が離れていくという負の部分も描かれている。それでも、ベンチャーは楽しいのだと思わせてくれるはずだ。
無知ゆえに大胆な若者が、挫折しながらもアイデアと行動を繰り返し成長していく姿は、実業家であり、ビジネスセミナーで常時予約待ちという人気コンサルタントでもある著者だから描けた実践的なノウハウが詰まっている。
また、堀江氏をモデルにしていると思われる“永江”という人物が後半に登場するのだが、初めて伊部と永江が対面する際のエピソードはかなり強烈だ。永江の独特のやさしさと厳しさはモデルの氏もきっとそうなのだろうと、興味深く読めた。小説の舞台となった年代は90年代末のITバブル期から2000年代前半。当時の空気を味わいながら、起業のノウハウを吸収できる一石二鳥な一冊である。
なお、本書の読者に向けた“起業家応援キャンペーン”が2014年2月末日実施されている。詳細は書籍にはさまっているピンク色の紙を参照のこと。起業をしたけれど上手くいっていない人、これから起業をしたいと考えている人などは要チェックだ。
(新刊JP編集部)
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