「プレゼンテーション」がこれほど日本で注目を浴びたのは、おそらく今年が初めてでしょう。
もちろん、そのきっかけはオリンピック東京招致を決めたプレゼンテーションです。安倍晋三総理や滝川クリステルさんら7人のプレゼンターの熱意のこもったスピーチは、多くの人にプレゼンテーションの素晴らしさ、聴衆に訴えかける力を再認識させました。
『心を動かす!「伝える」技術 五輪招致7人のプレゼンターから学ぶ』(荒井好一/著、SBクリエイティブ/刊)は、彼らのスピーチをモデルに、人に伝わるプレゼンテーションに何が必要かを明かしていきます。
■「お・も・て・な・し」を強烈に印象づけたもの
今回のプレゼンテーションのハイライトは、なんといっても滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」のシーンです。
この場面、滝川さんが左手を顔の前に持ってきて、やわらかく結んだ指先で、一語一語を丁寧に示しながら発音したことで、聴衆に彼女のスピーチが強く印象づけられることになりました。もし、彼女がスピーチの流れで、ただ「おもてなし」と発言しただけなら、このシーンは聞く人の頭の中に残ることはなかったでしょう。
滝川さんがしたようなスピーチの中での手の動きを「ビジュアルハンド」といい、言葉の内容を補足するようなジェスチャーで視覚に訴えることでわかりやすさと躍動感が加わります。
「何を伝えるか」と同じくらい「どう伝えるか」も重要。
滝川さんのスピーチはプレゼンテーションの極意の一つの体現だったといえます。
■安倍スピーチに見る「個人的な話」の重要性
「何を伝えるか」という点では、安倍総理のプレゼンテーションが出色でした。
まず、総理大臣として、「状況は統御されています」と原発の不安を打ち消して、IOC委員がその後のスピーチを安心して聴けるようにしてから、「真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が、確証されたものとなります」と言って、国を挙げてオリンピックを支援することを約束します。
もちろんこれらも効果的だったのですが、それだけでは総理としての役割を果たしたに過ぎません。
安倍総理のスピーチで注目すべきなのは、一人の人間としてスポーツとオリンピックにまつわる自身の個人的なエピソードを披露したこと。
自身が10歳だった時の東京オリンピックの思い出や、ミュンヘン大会を見てアーチェリーを始めたことなど、本論とは関係のない個人的な物語を話すことで、聴衆を自分のスピーチに引き込んだのです。
日本人はおうおうにしてプレゼンテーションで本論ばかりを語りがち。しかし、「個人的な話」をしてスピーカーの人となりを見せることは、実はプレゼンテーションではとても大事なことなのです。
プレゼンテーションというのは、ただ自分の伝えたいことを暗記して話すだけでは相手の心を動かすことはできません。目線や体の動き声色など、人として持っている全ての機能を総動員してはじめて感動を与えることができる、ハイレベルなコミュニケーションだといえます。
本書では、滝川さんと安倍さんの他にも、太田雄貴さん、水野正人さん、佐藤真海さん、竹田恆和さんそれぞれのスピーチが分析されているとともに、「どのように伝えるか」「何を伝えるか」「どうやって訓練するか」という3のテーマに沿ってプレゼンテーションの極意が解説されています。
五輪招致を成功させたスピーチは、私たち自身が説得的なプレゼンテーションスキルを身につけるのに一役買ってくれるはずです。
(新刊JP編集部)
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