国民にさえ“ダメな国”と思われている日本。しかし、どうしてダメな国といえるのだろうか? もし仮にダメだったとしたら、それはどうしてなのか?
作家、経済評論家の三橋貴明さんと、作家のさかき漣さんがタッグを組んで執筆した、日本経済や政治、メディアを学ぶことができるエンターテインメント小説『コレキヨの恋文』(小学館/刊)や『真冬の向日葵』(海竜社/刊)は話題になったが、その第3弾となる『希臘(ギリシア)から来たソフィア』(さかき漣/著、三橋貴明/原案、自由社/刊)も同様に高い評価を得ている。
『希臘(ギリシア)から来たソフィア』は、政治家一門4代目という超エリートながら選挙に出て大敗を喫し、失意に沈む青年・橘航太郎と、財政難に悩まされるギリシアから日本に留学してきた美女・ソフィアが出会い、大喧嘩を繰り広げながら、日本とギリシアの比較を通して国家の本質を学んでいくエンターテインメント小説。
新自由主義の影の部分に切り込んでいく本書は、今の日本に警鐘を鳴らす一冊だ。今回は本書について、著者のさかきさんにお話をうかがうことができた。前編に続き、この後編では「日本」という国について切り込んでいく。
(新刊JP編集部)
◇ ◇ ◇
―さかきさん自身は、新自由主義、グローバル化についてどのように考えていますか?
さかき:私は政治経済については素人ですから、学術的な観点から意見を述べることはできません。ただ三橋先生を始め、例えば筑波大学名誉教授の宍戸駿太郎先生、京都大学大学院教授の藤井聡先生、元京都大学大学院准教授の中野剛志先生、あるいは滋賀大学の准教授の柴山桂太先生、九州大学大学院准教授の施光恒先生などなど、様々な先生方のお話を聞くにつけ、「新自由主義的な考えは、日本人には合っていないのではないか」、との思いを強くします。政治経済の問題点はひとまず置いておいても、その他、日本の文化や伝統についても、破壊してしまう恐れを孕んでいる思想であると危惧しています。
―本作は読み手に対して「日本とはどんな国か」について考えさせる内容になっている小説です。さかきさんは日本という国の素晴らしさについてどう考えていますか?
さかき:まず、これほどの長きに亘り国名が変わらなかった、という歴史的事実からして、誇るべきことだと考えています。世界地図の変遷を見れば分かるように、多くの国は、短いスパンでその名を変え続けてきたのですから。
続いて特筆すべきは、“モノづくり”にかける情熱です。日本人がひとたび何らかの生業に携わると、ありとあらゆる方向からの切磋琢磨を重ねます。あまねく産業を文化芸術の域にまで高めてしまう、この凝り性な国民性を誇りに思います。
そして最後に挙げたいのは、大多数の日本人が持っている、おおらかな宗教観です。古事記・日本書紀をお読みになれば分かるように、人間臭い神々が実に奔放に活躍する物語が、国の史記であり立国神話なのです。一神教を信じる人の国民全体に占める割合が高い国とは、宗教観に大きな隔たりがあると思います。他国と自国の宗教観のどちらが良い、ということはありませんが、私個人としてはこの日本の鷹揚な宗教観を好んでいます。
―本作で読者に最も伝えたかったことをあげるとすれば?
さかき:現代において、人間は、国という概念から逃れて生きていくことは困難です。なぜなら正常に機能している共同体として、現状の最大なものが、「国」であるからです。ですから、より幸福に安定的な生活を求めるひとならば当然、国を否定することはできないでしょう。
しかし、だからと言って、極端な国粋主義に染まることも、これまた困難な生き方です。そのため、作中で航太郎に「国は大事だが、それによって人が理不尽な枷を付けられてはならない」と語らせました。
私たちにとって、現状もっともバランスの良い「国」との付き合い方とは、月並みではありますが最終的には、「穏やかに国を愛し、国民の益を保持する。そのうえで他国との良好な関係を築く」ということしかないのではないでしょうか。アリストテレスの遺した考えのひとつに「中庸の重要性」というものがありますが、なにごとにも通ずる、非常に含蓄深い考えであると思います。
―さかきさんは哲学を専攻されていたとのことで、古代ギリシア哲学に触れる機会は多いと思いますが、古代ギリシア哲学から学んだことなどがあれば教えて下さい。
さかき:学生時代、私はそれほど真面目ではなかったので・・・。
ただ上げるとすれば、プラトンの「哲人政治」については、よくできた考えだと当時から思ってきました。未だに、これを実現できたら良い世の中になるのではないか、と考えてしまうこともあります。ただ理想論であるので、実際に運用したら恐ろしい事態になる可能性を否定できません。なぜなら哲人にとって「民にとって幸福である」と考えられる概念が、一般大衆にとっても正しく幸福である、という保障はどこにも無いからです。また、本当に無私無欲の「哲人」を生み出すこと自体が困難で、まずもって不可能であるからです。
それにしてもギリシアとは稀有な存在だと思います。偉大な思想家を多数生み、その考えが書物として残り、現代にまで息づいている。この事実だけでも尊敬に値します。
―人生の中で影響を受けた本を一冊あげるとしたらなんですか?
さかき:一冊、と限定することが難しいので。太宰治と立原道造の全作品です。
―このインタビューを読んでいる読者へメッセージをお願いします。
さかき:本書は中高生から大人まで楽しめる教養小説です。楽しく読みながら、「“国”とはいったい何だろう? 人生における“幸せ”とは何だろう?」と考えて頂ければ幸いです。
そして読了の後には、中野剛志先生による帯の文句、「大学でも教えない国家の本質を一気に読ませるなんて、反則だ!」の妙を味わっていただければ、これ以上の喜びはありません(笑)
(了)
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