国民にさえ“ダメな国”と思われている日本。しかし、どうしてダメな国といえるのだろうか? もし仮にダメだったとしたら、それはどうしてなのか?
作家、経済評論家の三橋貴明さんと、作家のさかき漣さんがタッグを組んで執筆した、日本経済や政治、メディアを学ぶことができるエンターテインメント小説『コレキヨの恋文』(小学館/刊)や『真冬の向日葵』(海竜社/刊)は話題になったが、その第3弾となる『希臘(ギリシア)から来たソフィア』(さかき漣/著、三橋貴明/原案、自由社/刊)も同様に高い評価を得ている。
『希臘(ギリシア)から来たソフィア』は、政治家一門4代目という超エリートながら選挙に出て大敗を喫し、失意に沈む青年・橘航太郎と、財政難に悩まされるギリシアから日本に留学してきた美女・ソフィアが出会い、大喧嘩を繰り広げながら、日本とギリシアの比較を通して国家の本質を学んでいくエンターテインメント小説。また、恋愛小説的な要素も含まれており、ヒロインのソフィアの異様なツンデレぶりは印象的だ。
新自由主義の陰の部分に切り込んでいく本書は、今の日本に警鐘を鳴らす一冊だ。今回は本書について、著者のさかきさんにお話をうかがうことができた。その前編をお送りする。
(新刊JP編集部)
◇ ◇ ◇
―この小説は三橋さんとの共著だった『コレキヨの恋文』『真冬の向日葵』の続編にあたる一冊となっていますが、今回はさかきさんが著者、そして三橋さんが原案とクレジットされています。その理由を教えていただけますか?
さかき:少し説明が長くなってしまうのですが。
もともと三年ほど前に私が書いた「夜桜をモチーフにした短編小説」があったのですが、これがなぜか三橋先生からお褒めの言葉を頂いたのです。ちょうど同じタイミングで、小学館から三橋先生へ「経済を学べるエンタメ小説」のオファーがあり、私もこの小説の制作に参加することになってしまいました。結果できあがったのが『コレキヨの恋文』です。これはまず三橋先生がざっと書いた原稿を、私の方で小説として書き直す、という作業でした。全篇にわたり脚色や加筆修正はしてもいいということだったのですが、“削る”という行為は完全にNGの仕事でした。
この共作が予想を上回る評価を受けたことから、続編を作ろうという企画が持ち上がりました。通常は本と言うのは、出版社から依頼があって初めて出版できることが多いんです。が、この続編は三橋先生ご本人による企画だったため、まず三橋・さかき共作の続編を出してくれるという出版社探しから始まりました。有難いことに海竜社様と自由社様が手を上げてくれ、自由社に先んじて海竜社から生まれたのが、『真冬の向日葵』になります。『真冬の向日葵』については、三橋先生のメディア・リテラシーに関するお考えを完全に取り入れる、というルールの下で、物語自体はかなり自由に書かせていただきました。ただこの作品は、小説としての執筆期間がたった二か月強と極端に短かったこともあり、私としてはもっと練りたかった、というのが正直なところです。
上記二作が一応ほどほどに売れたことから、三作目である『希臘から来たソフィア』については私ひとりに任せてもらえることになりました。つまり、三橋先生から預かるのは、政治経済や歴史に関する先生の持論のみで、その中から取捨選択して好きなものだけを作品内に取り入れれば、あとは自由に物語を書いていいということでした。従って本作に関しては、小説としての内容だけでなく、作品全体で訴えた“国家観”についても、実は私個人の考えが大きく反映されています。当然ながら、三橋先生のお考えとは少々差異があるかと存じます。そういった理由で、最後の「希臘から来たソフィア」のみが、三橋先生原案、さかき著として、世に発表されました。
―本作ではヒロインのソフィアがギリシアの出身ということになっていますが、どうして日本との比較対象としてギリシアを選んだのでしょうか。
さかき:これは自由社の担当さんのご提案です。経済危機に瀕するギリシアを今取り上げるのは、タイムリーで意義が大きい、という理由だったと思います。
しかしいざ物語にする段になって、両国ともに多神教の考えが根幹にあるという点を思い出し、それがストーリーを作る上でのキーになりました。
―冒頭を読んだ時に、主人公の2人(航太郎とソフィア)が持っている考え方(新自由主義的な思想)がかなり極端だなという風に思いましたが、その分、自分たちが背負っているものに気づいて成長していく姿が印象的でした。この2人のキャラクター作りで気を付けた点はありますか? また、ソフィアの異様なツンデレぶりの裏話を教えてください。
さかき:キャラクターの性格が極端という点、これは本書の企画者である三橋先生のご提案、というか“指示”です。私がひとりで考えると、キャラクターたちは至って常識的な性格になってしまいます。特に“ツンデレ”に関しては、三橋先生の提案を受けて初めて勉強したものですから、書きながら「果たして、これでいいのだろうか?」と自問自答する日々でした。
―前作、前々作の主要キャラクターたちも要所で登場し、ファンの皆さんも楽しめると思いますが、ストーリーを作る上で悩まれたところがあれば教えて下さい。
さかき:『コレキヨの恋文』は自然とハッピー・エンドにできたのですが、『真冬の向日葵』については主題の性質上、どうしてもバッド・エンドしか考えられませんでした。三橋先生からは「コレキヨ同様に、ヒマワリも明るく終わらせてください」と要望が来ていたのですが、どう考えても難しい。そこで交渉し、最終的には「悲劇のまま終わらせる」ということを了承いただきました。私も小説家として、作品を一定の水準以上の出来に仕上げるため、そうせざるを得なかったのです。ですが、そうは言っても、せっかく本を購入してくれた読者の皆様も、向日葵については読後感がさぞかし悪かったろうと思います。ですから、三作目『希臘から来たソフィア』はとにかく明るい未来を予見させて終えられるようにと、力を注ぎました。
(後編に続く)
【関連記事】
・
日本は本当に“ダメな国”なのか? 国家の本質を知る小説・
あの国は国家破綻した!?・
日本の国土面積、実は結構広かった・
日・中・韓 それぞれお互いの国をどう思っている?『希臘(ギリシア)から来たソフィア』