落ち込んだ時や悩んでいる時、一杯の紅茶が張りつめた心を和らげ、少しだけ気持ちを楽にしてくれることがある。また、周囲の人にかけられたひと言によって不安や怒りに駆られた状態から落ち着きを取り戻したという経験は、きっと多くの人たちがもっているはずだ。
『奇跡の紅茶専門店』(荒川祐二/著、マガジンハウス/刊)に登場する7人の男女は、みなそれぞれに人生に悩み、物語の舞台となっている「I TeA HOUSE」に足を向ける。
24歳のキャバクラ嬢・美沙希は、小学生時代に両親が離婚。再婚相手の男に暴力を受け、リストカットを繰り返すようになった。中学に上がると非行に走り、高校には進学せず。18歳で水商売の世界で働き始めたが、寄ってくる男はまともに働かず、お金をせびるろくでなしばかり。
精神安定剤に依存し、ぼんやりした頭で「どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」と考える美沙希はある日、病院に向かう途中、熱中症で倒れてしまう。
「お目覚めですか?」
意識を取り戻した美沙希の目の前に現れたのは、「I TeA HOUSE」の伊藤マスターだった。
マスターは美沙希に一杯のフレーバーティーを振舞う。そのおいしさに感動し、落ち着きを取り戻した美沙希は、彼女の手首の傷に気がついたマスターに促され、これまでの人生や、死にたいほどつらいのに死ぬことができない自分自身を告白する。
「お客様自身に『変わろう』という意思が必要なのかもしれませんね」
マスターにそう言われ、またいつでも来てください、と送り出された美沙希は真剣に自分の人生を見直し始めるが…
「I TeA HOUSE」は、大阪・樟葉に実在し、訪れた人の悩みに応じた紅茶を淹れてくれるという、風変わりな喫茶店。本書はあくまでフィクションだが、作中に登場する7人の男女はみなそれぞれの事情で店を訪れ、自分に合わせて淹れられた紅茶と、時にやさしく、時に厳しいマスターの言葉に背中を押される格好で自分を変える努力を始める。
「ろくでもない人生を変えたいなら、まずはろくでもない自分を変えないといけない」
そこまでは誰もが考えることだ。しかし、ほとんどの人は日々の生活に追われ、目先の欲に振り回されるうちに、その気持ちを風化させてしまう。本当に自分を変える行動を起こすには、何か強烈なきっかけが必要だろう。
前述の美沙希にその「きっかけ」を与えたのは、まぎれもなく「I TeA HOUSE」での経験だ。それと同じようにこの本は、悩みを抱える多くの人が自分を変えるきっかけとなるかもしれない。
少なくとも、著者の荒川さんはそうなることを願っているはずだ。
(新刊JP編集部)
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