「ホラー映画と景気のくされ縁」の話を聞いたことがあるだろうか。景気が悪い時代には良質なホラー作品が数多く生み出されるというものだ。
古くは大恐慌時代のアメリカ、ハリウッドに「ドラキュラ」「フランケンシュタイン」がお目見えし、太平洋戦争突入の戦火のなか「狼男」が登場したのはご承知の通り。昨今の日本に目を向けると、二度のオイルショックを体験した1970年代には、パニック、ホラー作品の金字塔が続々登場している。小松左京の空想科学「日本沈没」、666のダミアン「エクソシスト」、金田一耕助といえば角川映画「犬神家の一族」が人気を集めた。90年代の失われた10年には、アカデミー賞4部門「羊たちの沈黙」、サイコブーム作った「セブン」、邦画で出色「女優霊」、00年の黒澤清「回路」などヒットした。
比較的低予算での制作が可能で、人々のたまった鬱屈を映画内で非合法に発散し、タイムリー性が発揮できる小回りのよさなどが人気の要因と指摘されている。
そんな中、かの手塚治虫の息子で、ヴィジュアリストの肩書きで活動中の手塚眞氏がホラー小説『トランス 位牌山奇譚』(イラスト:緒方剛志、竹書房刊)を発表した。
手塚眞氏は79年、現役高校生時代に短編映画「HIGH SCHOOL TERROR」でジャパニーズホラーブームの先駆となり、25歳で監督プロデビュー。86年にVシネマの草分け的作品「妖怪天国」を発表し、90年代、開発初期のハイビジョンに真っ先に取り組んだり、当時ゲームとビジネス一辺倒のPCソフトに、生物による癒しをテーマにいち早く取り入れたり、映像コンテンツの発展において、要所要所に現れる"街角のおまわりさん"のような活躍をしてきたが、そこに新たな仕事が加わった。
『トランス 位牌山奇譚』は現代を舞台に、有名大学を出て一流企業からドロップアウトした、黒髪ウェーブの長身長髪の引きこもりニートのイケメン・志藤渚左が、ひょんなことから自ら真っ向否定の霊感占い稼業と関わることになり、お告げに絡んで猟奇殺人事件に巻き込まれるというストーリー。
命を狙われ、サイコとホラーの波状のなか、謎解きに挑んでいく。その盛り上がりは読者のカタルシスを誘うだろう。著者真骨頂の映像との親和性も予見させる、一級のミステリーホラーだ。
手塚治虫の"DNA"は今度はどんな要所に立ち現れて、何を私たちに指し示してくれるのか。新しいメッセージに耳を澄ましたい。
(新刊JP編集部)
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