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イノベーションが生まれなくなる3つの誤解

 なぜ、アップルは次々とイノベーション商品を開発できるのでしょうか。なぜ、スターバッックスにはロイヤルカスタマーが多いのでしょうか。
 『48の成功事例で読み解くドラッカーのイノベーション』(すばる舎/刊)の著者、藤屋伸二さんによると、「その答えはイノベーションにある」といいます。みなさんの会社でも「イノベーションを起こそう!」といったスローガンが叫ばれていませんか。ただ、このイノベーションはとても誤解されることが多いそうです。

■誤解1 イノベーションは技術革新である
 「イノベーション」の意味について、多くの人は「技術革新」だと思っているはず。確かに、新聞や用語辞典を見ると、そう説明されていることがほとんどです。
 しかし、藤屋さんは、これは誤解だといいます。確かに技術は大事ですが、そこに固執していることが、日本がイノベーションを起こせない土壌を作っているのです。
 実は技術抜きでもイノベーションは巻き起こせます。例えば、サンリオのキャラクター「ハローキティ」は800を超える世界の企業とコラボレーションをしたおかげで、ライセンス収入が大きく伸びました。そして、2008年にアメリカでの直営店30店を閉鎖し、ライセンス収入を獲得するビジネスモデルに切り替えたのですが、これはまさに同社にとってイノベーションといえるものでした。技術ばかり目がいきがちですが、少し視点を変えてみる、それが大事なのです。

■誤解2 イノベーションは全社的なものである
 イノベーションは、全社あげての大掛かりなプロジェクトであると考えている人も多いはず。しかし、実際はそんなことはありません。イノベーションは個人でも起こすことができます。
 例えば「ポストイット」は一人の技術開発者によって生まれたものです。そもそも作りたかったのは剥がれない接着剤。しかし、その途中で偶然見つけたのが貼ってもすぐに剥がれてしまうものでした。それを知人に使ってもらったところ「使いやすい!」と評判に。商品化に至ったというわけです。
 もちろん全社的なプロジェクトによって取り組むもの(たとえば東レの炭素繊維など)もありますが、基本的には既存のものや既存の技術の組み合わせによってイノベーションは創り出されます。

■誤解3 イノベーションには天才的なひらめきが必要である
 これまでイノベーションを起こした発明王のエジソンやアップルのスティーブ・ジョブズなどは、いずれも天才と謳われています。
 では、天才がいないとイノベーションを起こせないのでしょうか。そうではありません。多くのイノベーションは普通の人たちが創り出しています。たとえば「あったらいいな」でおなじみの小林製薬などマーケティングをしっかりと行い、人々のニーズを満たす製品を開発、その勤勉さが大きな原動力となっています。
 藤屋さんは「イノベーションとは、普通の人たちが行なう体系的な仕事」と述べます。イノベーションは決して特別なことではないのです。

■事例でわかるイノベーションを起こす着眼点
 では、どうやってイノベーションを起こせばよいのでしょうか。藤屋さんによれば、その秘訣は7つあるそうです。ここでは代表的な3つの秘訣を着眼点と事例で紹介します。
 
1.「想定外のものをチャンスに変える」
 想定外とは、「事前に予想していた範囲を超えること」です。なかでもドラッカーが推奨しているのは「想定外の成功」で、「イノベーションの最大のチャンスだ」と言っています。
 前述のポストイットはまさに「想定外」をイノベーションに変えた具体例ですし、他にも、1930年代のはじめ、赤字に苦しんでいたIBMが危機を脱したのも想定外によるできごとでした。創業者のトーマス・ワトソン・シニアは、想定もしなかった公立図書館から注文を得て大恐慌のピンチを乗り切ることができました。
 その後、IBMは科学計算用に設計されたコンピュータが給与計算に使われている"想定外"を発見。自社開発のコンピュータを企業会計用に設計し直し、一躍コンピュータ市場のトップに踊り出ます。
このケースは想定外のできごとを生かしてイノベーションを起こした好例といえます。想定外の事象もしっかりと観察・分析・対応することで事態を好転させることができるのです。

2.「理想とする状況とのギャップ」
 ギャップとは、あるべき姿と現実の差異のこと。原因が不明なこともありますが、このギャップがあること自体がイノベーションのチャンスになります。
 史上最年少で株式上場を果たした村上太一社長率いるリブセンスは、「広告掲載料不要」の求人サイト「ジョブセンス」で一躍有名になりました。採用された社員側に「お祝い金」を支払うことで、採用した企業が申告せざるを得ない環境をつくったことが最大のイノベーションです。ドラッカーも「最大の賛辞は『なぜ、気づかなかったのだろう?』と言わせることだ」と言っています。

3.「考え方・価値観・認識の変化」
 ペットボトルに水が半分入っています。「まだ半分ある」と言おうと、「もう半分しかない」と言おうと、物理的には同じです。ドラッカーは「『まだ半分ある』から『もう半分しかない』に変わったときに大きなイノベーションのチャンスが生まれる」と言っています。
 生麺に近い食感を再現した「マルちゃん正麺」は、低価格化が叫ばれる市場環境のなかで5食500円という強気の価格設定にもかかわらず、大ヒットしました。デフレ生活に飽きた人たちが、プチ贅沢を味わおうという認識の変化が背景にあったと言われています。

 こう考えれば「イノベーション」を起こすのは難しいことではないと感じるはずです。視点を少しだけずらしたり、幅広い情報を持ちながら、自分が携わっている商品や業界としっかり対峙したりすることで、イノベーションは可能となります。
 本書は様々な企業のケースが例として出されているので、イノベーションが起こる現場とはどんな感じになっているのか、理解しやすいはずです。行き詰まりを覚えていたり、突破口がなかなか見つからない人は参考にしてみてはいかがでしょうか。
(新刊JP編集部)

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