出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!49回目の今回は、3月に発売された新刊『アニバーサリー』(新潮社/刊)が好評の窪美澄さんです。
『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞した窪さんは今最も勢いのある作家。そんな窪さんに、新刊について、読書について、さらには創作者としての才能についてと、さまざまなテーマでお話を伺いました。
■「様々な時代に生まれた人たちの人生を多層的に書こうと思った」
―本書『アニバーサリー』を拝読して最初に目を引いたのが、東日本大震災の描写です。まず、震災が窪さんにとってどのような意味を持っていたのかをお聞かせ願えればと思います。
窪「この作品はもともと『週刊新潮』に連載していたものなのですが、そのお話をいただいたのが震災の三カ月後くらいだったんです。週刊誌に連載するのであれば、世の中で起こっていることと多少リンクさせたい気持ちがありましたし、あまりにも大きな震災だったので、書かざるを得ないと言うと大げさですけど、書いた方がいいんじゃないかとは思っていましたね。
ただ、地震ありきの作品ではなく、元々は女性の一代記を書きたいというのがあって、アイデアとしてはそちらの方が先でした」
―『アニバーサリー』というタイトルはどのような意味を持っているのでしょうか。
窪「"記念日"っていうとおめでたいイメージがあるかもしれませんが、祝う意味だけではなく、その日を呪うという意味もあるのではないかと思うんですね。
終戦記念日にしても、戦争が終わって良かったっていう国もあれば、そこから負けが始まったという国もある。この本では、3月10日の東京大空襲と8月15日の終戦記念日、3月11日の東日本大震災という3つの大きな出来事があった日に、登場人物の女の人の人生が変わってしまいます。それがいいことか悪いことかはわからないけども、人生が大きく変わった節目という意味で、この『アニバーサリー』というタイトルにしました」
―この作品では、先ほどおっしゃった晶子と、もう一人の主人公ともいえる真菜の人生が語られます。彼女たちの人生を通して、それぞれの家族や夫婦についても対比的に読めたのですが、このように世代の違う二人の女性とその家族を描くことで窪さんはどのようなことを表現したかったのでしょうか。
窪「物語の縦糸と横糸を通すということをやりたかったんです。晶子は昭和10年生まれで、真菜は昭和55年生まれ。そして真菜のお母さんの真希は作中で何年生まれとも書いていないんですけど、その三人の物語をクロスさせるというか、昭和55年生まれの人から見たら昭和10年生まれの人はどう見えるのかなとか、真菜から見て自分のお母さんの生き方はどう映るのかなということを書きたかった。一人の登場人物の一代記(とりました)だけだと、その人の人生の始まりから終わりまでということになって、縦糸だけになってしまいます。だから違う世代の登場人物をおいて、様々な時代に生まれた人たちの人生を多層的に書こうと思いました」
―もう一つ大きなテーマとして読めたのが、真菜の人間的な変化です。彼女が子どもを産んだ時点では、まだ10代の頃の友人・絵莉花の影響から抜けられていない、どこか刹那的な雰囲気がありましたが、晶子や千代子との交流によって少しずつ変わっていきます。このような出会いや交流による人の変化というのも執筆時のテーマとしてあったのでしょうか。
窪「もちろんそれはあります。10代の頃は、真菜にとって絵莉花はものすごい影響力を持っていたけど、出産が彼女の変化の一つのきっかけになったと思います。
女の人にとって出産って、どこかで"負ける感覚"があるんですね。何にもできなくなってしまうし、時間も取られるし。仮に10代の真菜が晶子に出会っても"うざいおばあちゃんだな"と思うだけで交流はなかったと思います。でも、出産して弱っている状態で、体にも心にも力がない時だったから、年の離れたおばあちゃんの助けを受ける気持ちになれた。こういうことは実人生でもあると思います。個人的にもいいタイミングで出会うことで、自分の人生が変わったというのは実感としてありますね」
第2回「感性だけで書き散らしていくと長生きはできないかな、という感じはする」につづく
(新刊JP編集部)
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