日本は治安が良くて、安全で、豊かで、規律がしっかりしている。
東日本大震災の際には、あれだけの混乱の中でも、略奪などはほとんど起こらず、誰もが助け合いの精神をもっていた。そんなわれわれ日本人の態度は世界に称賛された。
それに、不況だといっても、GDPは世界3位。
こんな国が「世界一貧しい」などと言ったらバチが当たるかもしれない。
しかし、私たちは今の暮らしが本当に豊かで幸せだ、と心から感じているだろうか?
その問いかけに対する答えは『日本が世界一「貧しい」国である件について』(谷本真由美/祥伝社刊)の中にある。
日本社会に「生きづらさ」を感じている人たちは多い。
仕事に追われ、組織に生活を捧げる。自分のための時間や家族と過ごす時間、さらには健康を犠牲にして忙しく働くサラリーマンは「社畜」と呼ばれる。
働く人のうつ病や自殺も社会問題化している。
若者は大学を出ても望む仕事にありつけず、将来に絶望している。
そのうえ私たちは、「空気」を読むこと――日本社会の同調圧力の強さを感じて息苦しくなることがある。
子どもはクラスメイトと同じような格好をし、同じ音楽を聴いていなければいけない。流行ものを身につけていないとモテない。大学生は新卒で就職しないといけない。上司より先に退社してはいけない。ママ友の会に付きあわなければいけない。老人会でさえ、いじめや仲間はずれがある。
皆と同じこと、世間の「暗黙の了解」を守らなければ、爪弾きにされてしまうのだ。
経済協力開発機構(OECD)の「より良い暮らし指標」――日本では「世界幸福度ランキング」として知られるこの調査によれば、「生活に満足している」と答えた日本人は40%にとどまり、世界平均の59%を大きく下回った。「安全」で1位、「教育」では2位と、生活の水準は極めて高いのに、生活の質にかかわる「健康」「レジャー」「睡眠」などの項目はほぼ世界ワースト。日本人は、物質的に豊かであるにもかかわらず、肉体的・精神的には全く満ち足りていないのだ。
こんな事実を突きつけられてしまうと、谷本氏の本のタイトルも、受け入れざるを得なくなる。
著者の谷本氏は、日本生まれでイギリス在住の元国連職員。現在もロンドンの金融機関で情報システムの品質管理などに携わる。
本書には、その経歴を存分に生かした、日本で暮らす日本人には見えてこない「世界の現実」が詰まっていた。
たとえば、「家族や友人関係よりも仕事のほうが優先」という考え方は、日本ではあまり珍しくないが、谷本氏は、「日本の外でそんなことを言ったら、あなたは頭がおかしいのではないか? と言われる」とバッサリ切り捨てる。
「カローシ(karoshi)」という言葉は海外の辞書にも載っているのだそうだ。
他にも、少子高齢化、社会保障問題、国の抱える莫大な借金、グローバル化への対応、それから東北の復興と原発事故の処理――。喫緊の課題が山積しているにもかかわらず、手つかずのままだ。
残念なことだが、そんなことばかりしている日本は信用を失い、影響力はどんどん低下している。海外の書店からは日本コーナーが消え、大学の日本学科は縮小・閉鎖。「日本のようにならないように学ぼう」という報道がされているという。そして日本は、もはや「かわいそうな国」とまで思われているのだ。
著者の指摘は痛烈で、できれば聞かなかったことにしたいものも多数ある。それでも、これからの日本で、もう少し幸せに生きていくためには、耳を傾けなければいけないことだろう。
なお、本書は電子書籍版(800円)も同時発売される。電子書籍は800円。本書の購入者には、著者による「一夜限りのラジオ番組」のオマケがつくそうだ。
(新刊JP編集部)
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