経営者やリーダーにとって、自分の部下やスタッフのやる気をいかに引き出すかは、会社全体の業績を左右する大きな課題です。まして賃金が上がりにくくなっている今、彼らのモチベーションを高めるのはこれまで以上に難しくなっているといえます。
そんな中、人材育成・組織活性化コンサルタントの中昌子さんは、著書『社員もパートもみずから動き出す「心の報酬」の与え方』で、スタッフが自らやる気を出して、いきいきと働く職場づくりの方法を明かしています。
賃金に頼らず従業員のモチベーションを高める方法とは何か。中さんご本人にお話を伺いました。今回は後編をお送りします。
■会社の役に立っていることがわかった時、働く目的が変わった。
―中さんご自身についてなのですが、今のお仕事をされる前はスーパーでパートとして働いてらっしゃったとか。
中「そうなんです。23歳で勤めていた会社を辞めて、それから16年間主婦として子育てをしていました。ですから、子どもの学費の足しにと、どこかで働こうと思っても、資格も技術もありませんでしたし、それこそスーパーのパートくらいしかなかったんです。働く動機にしても“スーパーのレジ打ちや商品陳列くらいならできるだろうし、週に3、4回4、5時間程度なら、子どもたちの学校のPTA活動もできるだろうし”といういい加減なものでした。
ところが、いざ働き始めてちょっとした気配りをしたらお客様から感謝されて、働くことが楽しくなってきたんです。まさに“役立ち感”で、自分が人の役に立っていることが実感できた。それだけでなく、上司からも“中さんがいるからお客さんが喜んでくれる”って言われるようになって、自分が会社の役にも立っていると感じられた時に、“子どもの学費の足しにするため”から“お客さんに喜んでもらうため”に働く目的が変わったんです。
―働きがいを見つけた瞬間ですね。
中「そうですね。それからは行動も変わりました。もっと速くレジを打つためにどうしたらいいのかな?とか、どういう陳列をしたらお客様に手に取ってもらえるのかな?と自分から考えるようになって、接客ももっと良くしようと目の前のことを一生懸命やってるうちに食品部のチーフになり、それから半年後にはパートで店長になったんです。
以前の私がそうであったように“たかがスーパーのパートだから”と思う人がいるかもしれません。“たかが”と決めつけるのは自分の狭い価値観に過ぎません。どんな仕事でも必要としてくれる人がいますし、自分の捉え方ひとつで素敵な仕事に変わる。自分で自分の仕事が素敵だと思えるようになったらどんどんモチベーションも上がります。リーダーだけでなく、従業員みんながそういう気持ちを持つことが大事ですね。そういう意味では、マネジメントする人だけでなく、あらゆる社員やパートさん、そして、新入社員にもぜひ、この本を読んでほしいと思っています」
―はじめはいちパート従業員だったのが、チーフになって人をマネジメントする立場になった時はすぐにやる気になれましたか?
中「専業主婦をやっている時は、自分は社会人としてはもう成長できないのかなっていう気持ちがあったんです。それがスーパーで働き始めて“役立ち感”を得て、自分の成長を感じられるようになった。そんな時にチーフのお話が来たので、もっと自分の可能性を試したい、もっとお店の役に立ちたい、と思えました。
ただ、マネジメントの方法を知っていたわけではないし、勉強していたわけでもありませんでしたから、とにかくいろんなことを試してみましたね。もちろん失敗もありましたけど、朝思いついたことをその日のうちにやったり、そういうスピードは速かった気がします」
―人材育成・組織活性化コンサルタントとして様々な職場を手がけてきたかと思いますが、最も難しかった職場はどんなところでしたか?
中「IT企業などは、接客や接遇のような対人コミュニケーションよりもパソコンに向かって黙々と業務を進めることが多い業種なので、“コミュニケーション力やチームワークそして、笑顔なんて必要ない”と思っている人が多いのも事実です。隣の机の人と丸一日話さないこともあると聞いて驚きました。そういった会社のスタッフの心を溶かしていくのは少し時間がかかったかもしれません」
―リーダーとして、部下に対してやってはいけないことがありましたら教えていただければと思います。
中「“この人は使えない”というような悪い思い込みですよね。リーダーの方は、まずその思い込みを捨てて、誰にでも可能性はあると考えていただきたいと思います。
ただ、どうしても適性がない人はいますので、それは仕方がないのですが、最初から悪い思い込みを持ってしまうと、その人の光る部分や強みを見過ごしてしまいます。
それと、マイナスの言葉を使わないことも大切です。リーダーが “疲れた”とか“こんなことやっても無駄”というようなネガティブな言葉を使ってしまうと周りにも影響してしまうので、“疲れた”ではなく“がんばりすぎた”と言うようにするとか、“まずはやってみよう!”というようなポジティブな言葉を使ってほしいですね。
あとは、外部の人との接し方ですね。たとえばスーパーで働いていると、メーカーさんだとか問屋さんだとか、様々な業者さんがいらっしゃいます。そういう方々は謙虚な態度です。彼らに対して“仕入れてやっている”という“上から目線”で接しないように気をつけないといけません。どんな時でもお客様に対するのと同じように礼儀正しく真摯な態度で、感謝の気持ちを伝えるようにしてほしいですね。そうでないと、部下が勘違いをして商談時に横柄な態度をとってしまいます」
―スタッフの中にはどうしても性格が合わない人もいたかと思います。そのような人とはどのように接していましたか?
中「その人のコミュニケーションの癖を把握して、それに合わせていましたね。こちらが熱く語った方が伝わる人もいますし、逆に引いてしまう人もいますので、そこはその人のコミュニケーションのタイプに合わせると上手くいきますよ。そのためにも日頃から部下に関心をもってしっかりと観察することが必要になります」
―やる気を出すポイントも人によって違いますよね。任せてあげるとやる気を出す人もいればそうでない人もいて。
中「そうですね。そういうこともスタッフをよく見ていないとわからないんですよ。リーダーは部下に関心を持って、一人一人の違いを見極めてあげることが大事です。
おっしゃったように、どうすればモチベーションが上がるかは人によって違います。ただ、リーダーの方はあまり慎重にならずに、まずは働きかけてみてダメだったら違うやり方を試してみよう、くらいの気持ちでやっていただきたいです。」
―リーダーに向いている性格や、不向きな性格はありますか?
中「ないと思います。親も子育てをしながら親として成長していきます。リーダーも同様、初めてリーダーになった時からリーダーとして成長していくのだと思います。
ですから、もしご自分がリーダーになった時は“自分には向いてない”なんて思わずに“ここから育っていくんだ”と決意してやっていけば絶対いいリーダーになれるはずです。
リーダーって素晴らしいですよ。自分の成長はもちろん、部下やスタッフが育っていくことで大きな“役立ち感”を得られます。“あの時こんな風に言ってもらったから今の自分がある”なんてスタッフに言われたら、もううれしくて仕方ありません。まさに“心の報酬”ですよね。もし、あなたにリーダーになるチャンスが訪れたら、ぜひ「はい!やらせてください!」と前向きにチャレンジしていただきたいと思います。」
―本書はリーダーをターゲットとしながらも、それ以外の人にも役立つ内容だと思いました。中さんは本書をどのような人に向けて書かれたのでしょうか。
中「まずは企業のリーダー層の方や小さな会社の経営者の方ですよね。部下が一人でもいたらリーダーです。もちろん、新入社員やこれからリーダーになる人にも是非読んでいただきたいです。
あと、これは想定していなかったのですが、学校のPTA活動やご家庭での良いコミュニケーションのためにもこの本が役立ったという嬉しいご感想もいただきましたよ!」
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
中「東日本大震災の翌日は私の誕生日でした。人生には限りがあり、それはある日突然やって来るかもしれないということを強く実感しました。私の残りの人生の使命は何だろう?それは、笑顔でわくわくと働く社員と社員の笑顔と働く喜びにあふれた会社を日本中にたくさんたくさん増やすこと!私は今、人材育成・組織活性化コンサルタント、そして、スマイルコンサルタントとして、社員教育を通して、全国に「笑顔とわくわくのたね」をまくことに全力投球しています。
限られた人生の貴重な時間を笑顔でわくわくと働くのか?それとも愚痴や不満を言いながらいやいや働くのか?それは、みなさん自身の物事の捉え方と行動にかかっています。この本の中には、どなたでも次の日から行動できる小さな工夫が書かれています。また、エピソードを中心に書いていますので、わかりやすく、さっと読めるようにもなっています。少しでも皆様のお役にたてると幸せです!いつかみなさんの素敵な笑顔にお会いできる日を楽しみにしています!」
(取材・記事/山田洋介)
関連記事
・部下を育てるためには“仏の顔も7度まで”(インタビュー前編)・人をやる気にさせる叱り方4つのポイント・部下を潰す上司に3つの特徴・「バカな上司」と仕事をする3つのコツ