映画化もされた『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎/刊)をはじめ、「うつ」を描いたコミックエッセイが幅広い人に読まれている。一時代前は「怠け病」とも言われた「うつ病」だったが、今では「病気」として認識されるようになり、「うつ」で苦しむ人たちの支援活動なども含めて、その状況は大きく変わった。
そんな"うつマンガ"の元祖といえば藤臣柊子さんだ。1982年、『別冊フレンド』で少女漫画家としてデビューするが、24歳のときにうつ病を発症。以降はうつ病やパニック障害に悩まされながら、少女漫画と並行して結婚や労働問題、神経症やうつに関するコミックエッセイを発表してきた。
最新刊『躁鬱なんです、私。』(ポプラ社/刊)では、この6年間に藤臣さんの身体に起きた様々な異変を、明るいギャグ漫画タッチで描いている。
元々、「うつのち晴れ」というタイトルで、うつとの付き合い方や考え方を漫画で分かりやすくアドバイスするというテーマのもと、このコミックエッセイはスタートした。ところが連載途中、原因は不明だが徐々に原稿が書けなくなり、再びうつ病と思われる症状に悩まされることになる。さらに、うつ病の薬を飲んでもむしろ悪化してしまう事態にまで陥ってしまう。
そこで医師は別の薬を処方。それを飲むと、急に身体が楽になったのだ。これは、藤臣さんがかかっていたのが、「うつ病」ではなくて「双極性障害II型」(そううつ病)であったからだった。
そううつ病という名の通り、躁状態と抑うつ状態が交互にやってくるのが特徴だが、抑うつ状態の症状は見た目にはうつ病と似ているため、うつ病と診断されやすい。しかし、症状に効く薬が異なり、適切な治療が行われにくいのが特徴だ。
また、躁状態のときは、知らない映画を途中から見て号泣したり、宅配式レンタルDVDに怒ったりするなど、感情移入が激しくなったり、長い時間じっとしていられなかったり、生活リズムを作ることも難しいという。
さらに、藤臣さんにさらなる苦難が襲いかかる。自宅でパニック障害を発症してしまったのだ。急に血圧と脈拍の数値が上がり、過呼吸状態に陥る。かろうじて救急車を呼ぶが、マンガの中でそのときの自分の身体で起きていることを「なんだか全身の血液が沸騰しているようなカンジ」と表現する。
病院で処置をしてもらい、薬を処方してもらったが、その後も同じような症状が続き、友だちに相談しても「更年期障害では?」と言われてしまう。数日間で6キロも痩せたが、最終的には心療内科で出された薬でようやく落ち着きを取り戻したという。
うつ病も双極性障害もパニック障害も、どんな人でもかかる可能性がある。しかし、藤臣さんの言葉を借りると「のたうち回ることもできぬ苦しみ」「全身の血液が沸騰しているような感じ」というほどの苦しみを訴えても、いまだに「怠け病」などと軽く思われていることもある。だからこそ、こうした3つの病気の違いとその症状が、ざっくりとではあるが理解しやすく表現されているのはありがたい。
また、藤臣さんは、普通なら深刻になってしまうネタを、笑い飛ばせるエピソードに変えてしまうテクニックを持っており、さすが"元祖・うつマンガ家"と思わせてくれる。そこには藤臣さんが、あとがきでつづっている「どうか同じように心の病気に悩む方々に少しでも、ふーっと楽な気分が訪れることを願ってやみません」という想いが表現されているのではないだろうか。
深刻だけど、明るい。そんな藤臣さんのユーモア溢れるマンガはとても貴重な存在といえる。
(新刊JP編集部)
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