インターネットの普及や電子書籍の台頭によって減少の一途をたどる書店。
たしかに利便性の面では、特に中小規模の書店はネットにかなわないのかもしれませんが、書店には書店にしかない魅力もあります。このまま書店が淘汰されていっていいのでしょうか。
『本屋さんで本当にあった心温まる物語』(川上徹也/著、あさ出版/刊)は、実際に書店であった感動的なエピソードや、元気が出る話、勇気をもらえる物語など28編が収められています。
そこからは、書店でしか味わうことのできない、本を通した人と人の絆や人のぬくもりという大きな魅力が垣間見えます。
■「本の女神」に導かれて読書好きになった中学生
中学生時代、初めて一人旅をすることになったAさんは、道中で読む本を買うために立ち寄った書店で、自分の好みにぴったりの「理想の女性」に出会ってしまったそう。
その女性は自分よりも年上で20代半ばくらい。声はかけられませんでしたが、本を物色する彼女の様子を伺い、同じものを買ってしまったといいます。
その本は、芸大を目指す浪人生が、年上の精神科医に恋をするという恋愛小説でした。
書店で会った年上の女性に心を奪われた自分の境遇とまさにぴったりな物語だったため、Aさんは道中むさぼるようにその本を読み切ってしまったそうです。
旅から戻った後も、彼女に会えるのではないかという一心でAさんはその書店に通いましたが、彼女と再会することはありませんでした。
しかし、書店に通ったことは、それまで読書が好きでなかったAさんがたくさんの素晴らしい本と出会うきっかけとなりました。
Aさんは「彼女はもしかしたら本の女神だったのかもしれない」として、今でも書店に行くと彼女を思い出し、15年以上前の「ひと夏の甘い思い出」を懐かしむそうです。
■「書店がない町」の住人が決起
北海道の北西部にある留萌(るもい)市は人口二万四千人の小さな町ですが、不況のせいか4店あった書店がどんどん減っていき、とうとう一軒もなくなってしまいました。
書店がないと子どもの勉強で必要な参考書や問題集、学校で課される読書感想文の課題図書などを買うことができません。唯一S書店だけが春だけ臨時販売所を設けてくれましたが、それも春が終わるとなくなってしまいます。
なんとか書店を町に呼びたいと思った住人たちは、「S書店を留萌に呼び隊」を結成、S書店を誘致するべく署名運動をはじめました。署名は驚くほど順調で、すぐに2500人分集まりました。住人たちは、皆本屋さんを欲していたのです。
署名を持ってS書店に嘆願にいくと、「実現に向けてできる限り努力する」という言葉を担当者から得たものの、その後なかなかS書店からの連絡はありませんでした。
しかし、数ヶ月経ったある日、ついにS書店の留萌出店が決定します。
住民は大喜び、「S書店を留萌に呼び隊」の活動は見事に実を結んだのです。
ただ、せっかく出店しても、お客さんが入らなければいずれはまた撤退してしまいます。
「S書店を留萌に呼び隊」はどうすればS書店が留萌に根を下してくれるかを考えた結果、「S書店を応援し隊」と名前を変え、ボランティアでお店の手伝いをすることにしたそう。雑誌に付録を合わせたり、病院やお年寄りが集まる店に出向いて出張販売をしたり、S書店を支えるための活動に切り替えて再出発したのです。
「書店を町に」という住民たちの熱意が伝わってくるエピソードですね。ちなみに今でもS書店は留萌で営業を続けられているそうです。
本が好きな人であれば、みんな一つくらいは今回取り上げたような、書店にまつわる「うれしかった話」や「心温まるエピソード」を持っているのではないでしょうか。
本書の発行元であるあさ出版では、『「本屋さんに行こう!」大賞』と称して、一般の人からもこのようなエピソードを募集。大賞に選ばれた作品は、本書の第2弾となる『本屋さんで本当にあった心温まる物語2』で紹介される予定となっています。
また、全国書店ネットワークe-honの協力により、本屋さんに行きたくなる、本屋さんを楽しむ書籍のフェアを開催中です。
書店は、古くから地域に根ざしたコミュニティの場として機能してきました。それはネットにはない書店ならではの大きな魅力です。
書店の良さがもっと多くの人に伝わるよう、あなたが書店で経験した素敵なエピソードを、ぜひ投稿してみてください。それはきっと、苦戦しながらも奮闘する書店への励ましとなるはずです。
(新刊JP編集部)
■『「本屋さんに行こう!」大賞』ホームページ
http://www.sinkan.jp/special/bookstore/index.html
■「本屋さんに行きたくなる本フェア」開催中!(協力:e-hon)
http://www1.e-hon.ne.jp/content/bookstore_2013.html
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