鉄道ファンにとって大判の時刻表は危険極まりない。ページをめくって紙上旅行を繰り広げるうちに、時間があっという間に過ぎてしまうからである。本書はそれと同等、もしくは時刻表をしのぐ危険をはらんでいる。
北は北海道から南は九州まで、計192ページの写真集に収録された280点超におよぶ蒸気機関車の雄姿は、時空を超えて読み手の心を当時の日本全国各地に遊ばせてくれる。
雪煙をあげる宗谷本線のC55、東北本線のD51による「奥中山の三重連」、小海線を駆け抜ける「高原のポニー」C56、呉線をゆくC62の圧倒的な存在感、筑豊炭田から石炭を運ぶキューロクやD51・・・。眺め始めると時の過ぎるのを忘れる。困ったことに、この書評原稿の書き手も幾度となく写真の世界に引き込まれ、筆を進めるのに難儀した。何とも記者泣かせな汽車の写真集である。
驚くべきことに、撮影年月日がほぼすべてのキャプションに記されている。しかも「急行ニセコ1号」「季節夜行急行音戸51号」など列車名も完全に記録。写真とネガの管理が完璧だったのだろう。日本国内において昭和40年代から50年代初頭にかけ、第1次産業革命を象徴する石炭のパワーがどのようにして最後の輝きを放ったのか。きちょうめんな著者が歴史の大きな転換点を正確につづったことで、史料的な価値も高い1冊にしあがっている。
書名:国鉄蒸気機関車 最終章著者:對馬好一・橋本一朗発行:洋泉社定価:3700円+税