ミステリー作家の森博嗣さんは『ミニチュア庭園鉄道』という著書を持つ鉄道愛好家でもある。自宅の庭には1周520メートルものレールが敷かれ、自作の鉄道模型が走る(実際に乗ることもできる)。そんな鉄道少年の夢を体現した森さんの新刊が『ジャイロモノレール』(幻冬舎新書)だ。100年以上前に開発・実用化されたが、その技術は長く忘れ去られ再現不可能とされていた鉄道車両を森さんが完全復元した。本書は世界初のジャイロモノレールの概説書というから驚きだ。
ジャイロモノレールとは1本のレールの上をジャイロ(フレームの中で高速回転する重量物を持つ装置)で姿勢制御して走る車両だ。本書によると、1907年にイギリスの技師が模型をつくってデモンストレーションした。自分の娘を乗せて綱渡りする写真が紹介されている。その後大型の模型も作られたが、実用性が難しく「幻の鉄道車両」になっていたという。
模型界の先輩から復元を相談された森さんも最初はトリックだろうと懐疑的だった。イギリスに模型を見に行き、当時の写真や特許の図面も入手し、理論的に検討したところ、可能だという確信をもった。もともと森さんは国立大学工学部の研究者で教養部の学生に数学を講義したこともある。今回その数学が役に立ったという。
本書では3つの回転軸をもつジャイロから詳しく解説している。イメージとしては「地球独楽」を思い浮かべてほしい。それを利用したおもちゃもある。ジャイロモノレールはさらに姿勢制御機能が必要だ。森さんは2009年に試作1号機を作り、以後2015年の試作12号機までの改良のプロセスを紹介している。12号機のサイズは長さ45センチ、幅30センチ、重さ5.3キロというから模型としてはかなり大きい。12号機は自宅の庭園鉄道を15分で一周したという。次は自分が乗り込めるサイズに挑戦するそうだ。
森さんは今回の一連の取り組みを「趣味」ではなく「個人研究」としている。未知のことに没頭したからだ。「研究の面白さを知ってほしい」と訴える。
100年前は高速鉄道として構想され消えたジャイロモノレールが今後、社会的に実用化されることはないだろう。しかし、その奇妙なたたずまいを目にすると(森さんのブログでも映像が公開されている)、とりこになることは請け合いだ。実用化されたモノレールは大きな構造物が必要となるが、これはレール1本さえあればよく、カーブも小回りがききそうだ。遊園地に導入されたらたいへんな人気を集めるだろう。
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