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天守や御殿ばかりが城じゃない...名城はココを見よ

石垣の名城 完全ガイド

 数年前から続く城めぐり・城歩きのブームはなお高まりを見せている。インバウンド誘致を目指す改修や復元が増え、工事を終えたお披露目への殺到や、始まる前の駆け込み見学の増加も一因だが、城を訪ねる目的が、天守や城郭から、城の歴史がよく分かる石垣に移ってきていることが大きいという。

 城めぐりブームから生まれた新たな需要に応えるように刊行されたのが、本書『石垣の名城 完全ガイド』(講談社)。「日本の城を石垣から解説した初の石垣本」をうたう。数々の石垣の名城の紹介のほか、時代ごとの技術や構造の変化を解説。城の見方に新たなアングルを加えてくれる。

「日本100名城」で始まったブーム

 編著者は、城郭考古学者の千田嘉博さん。NHKの番組などで城の解説者としてしばしば登場しており、城や歴史のファンにはおなじみだ。2016年のNHKの大河ドラマ「真田丸」では、大坂の陣で大坂城の出城として築かれた真田丸の城郭考証を務めた。

 さて、近年の城ブームが始まるきっかけになったのは、06年の日本城郭協会による「日本100名城」のリストアップといわれる。この選定は、各地の名城を訪ねる手掛かりにしてもらおうというのが動機だった。その後、17年には同協会の50周年記念として「続日本100名城」も選定されるなど、城ブームは長く続いている。この間、09年6月~15年3月まで姫路城では平成の大修理が行われ、18年6月には名古屋城で復元された本丸御殿の公開が始まるなど、城への注目が高まった。名古屋城ではさらに、天守閣の木造復元が行われている。兵庫県朝来市の竹田城は「天空の城」として人気を集めている。

 城めぐりといえば天守閣などの建物が主な目的だが、これに加えて、SNSや城アプリなどの影響もあり、石垣への注目が増している。別の石の積み方が隣り合う「歴史的」箇所を写真に収め、シブいインスタ映えが新しい狙い目とか。

金沢城の秘密

 本書ではまず、多様な石垣を一度に見られることで知られ「石垣の博物館」とも呼ばれる金沢城を冒頭のカラー特集で紹介。初代藩主の前田利家から12代斉広(なりなが)まで、200年以上にわたり7期に分けて石垣が更新されていることが観察できるという。

 最も古い16世紀後半の1期目のものは、本丸東面などに残る自然石を用いた野面積み。17世紀初めの2期目には「算木積み」に進化、17世紀半ばにかけての3~4期目には算木積みがさらに洗練され、17世紀後半から19世紀初めの5~7期目の石垣は、石材を精密に切って隙間なく積み上げられるようになるなど、芸術作品に進化する様子がみてとれる。カラー写真で詳しく解説されており、実物を見に行こうかなという気にさせられる。

 徳川幕府の江戸時代、前田家のような外様大名に対しては特に、城の手入れは厳しく制限されたもの。それなのにどうして金沢城ではこうしたことが可能だったのだろうか。本書ではそのあたりには詳しく触れられていないが、伝統を誇る一方、歴代藩主が徳川家に配慮した振る舞いを心がけ、その結果、前田家が御三家に準じる家格を得られたかららしい。

 本書ではほかに「石垣の名城7選」として、江戸城、名古屋城、大坂城のほか、滋賀県の観音寺城、大分県の岡城、佐賀県の名護屋城、岡山県の津山城を紹介。築城の名手としてしばしば名前があがる武将の藤堂高虎、加藤清正らの業績に触れる一方、震災で被害を受けた熊本城の石垣修復調査のレポートなども寄せられている。巻末に添えられた格好になっている「石垣の名城36」では、いずれも短信だが、意外な石垣の歴史を教えてくれる。

 天守が現存する城は12か所、国宝は5か所しかなく、それらだけを訪ねる城めぐりではあっさり終わってしまうかも。石垣のシブさをきわめてこそ、城ブームを味わい尽くせる?

  • 書名 石垣の名城 完全ガイド
  • 監修・編集・著者名千田 嘉博 編著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年8月 5日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数B20取・140ページ
  • ISBN9784065126172
 

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