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「自分への手紙」を通して人生を振り返る。そこから見えるものとは(前編)

  • 書名 私への七通の手紙 統合失調症体験記
  • 監修・編集・著者名大瀧夏箕
  • 出版社名幻冬舎

過去の自分自身に手紙を書いてみる。
そこには自分が人生の中で大切にしていた価値観や想いが浮かび上がり、「自分との対話」が生まれる。

大瀧夏箕さんは統合失調症と診断を受け、30歳のときに精神科病院に入院をした。その体験をベースに、7通の自分への手紙をつづり、自分の人生を振り返った。それをまとめたのが『私への七通の手紙 統合失調症体験記』(幻冬舎刊)だ。

「手紙」を通して見えた、困難を乗り越えてきた自分。大瀧さんに「手紙を通して自分を振り返ること」の意味について話を聞いた。

(新刊JP編集部)

■「手紙」という形で自分の人生を振り返るということ

――もともとは「自分史書き起こしボランティア」という活動を知って、この本を執筆されたそうですね。

大瀧:そうですね。たまたま高齢者福祉施設のホームページを見ていたら、自分史書き起こしボランティアが募集されていたんです。その時に初めて自分史というジャンルがあることを知って、魅力的に思えました。というのも、以前の経験の中でディグニティセラピーという精神療法の存在を知っていて、それに近いと思ったんです。

ただ、いきなり他人の人生を聞きに行く度胸はなく、まずは自分自身で試してみたというのが、この本を執筆したきっかけの一つです。

――では、まずは自分の人生を振り返ることから始めてみようと。

大瀧:振り返るというよりは、とりあえず自分で書いてみようという感覚です。それで、書いているうちに気づいたことが2つありました。一つは自分の中に「誰かの役に立ちたい」という思いが生まれていること。もう一つは自分が文章を書くのが好きだということです。

ただ、書くことを自分の強みにするには、もっと何度も書いて練習して、最後に披露するという実験が必要でした。というのも、私は統合失調症の診断を受けているのですが、そのことが書くという行動に強く影響していました。

統合失調症の症状には幻聴や幻覚、支離滅裂など、当事者にとって非常に不本意で絶望的な劣等感を抱かせる症状があることは世間一般でも知られています。そんな偏見を受ける立場である統合失調症者の私の文章が、実際に他人に読まれて、どのように思われるのかを実験したかったということがあるんです。

他にも、統合失調症について関心を持ってほしいという思いや、一人の人間としての自分に関心を持ってほしいという気持ちもありました。そういった心情が揃ったことがあって、本書のテーマができていきました。

――本書は過去の自分に向けた手紙という形で、ご自身の人生がつづられています。この手紙というアイデアはどのようにして生まれたのですか?

大瀧:これは先ほどお話の中に出てきたディグニティセラピーから派生したアイデアです。

ディグニティセラピーは、終末期の患者さんの尊厳を守ったり、支えたりすることを目的とした精神療法の活動の一つで、支援する側が患者さんの大切にしてきた価値観や覚えておいてほしいことを聞き取って、手紙の形式にして患者さんやそのご家族に提供されます。その手紙という形がすごく魅力的に思えたことが大きいですね。

また、他にも私が文通を趣味として始めていたので、手紙という形に慣れていたこともあります。

――自分史を「手紙」という形にして良かった点はなんですか?

大瀧:どの時点の自分と対話するか、的を絞って書くことができたことですね。そうすることで、文章全体がスリムになったように思います。すんなりと短時間で読める作品にしたかったのでその点は良かったです。

また、私は健忘症を少し持っていて、自分自身のエピソードを事細かく物語的に書くことができなかったということもあります。何をしたか詳しくは思い出せないけれど、何を感じていたかは覚えているので、そこに焦点を当てて語りかけることができた。それが上手くはまった感じですね。

――中学1年生から44歳までのご自身と手紙を通して向き合うことで見えてきたものはなんですか?

大瀧:最初は人生の流れにただ翻弄されて、苦労をしてきた自分が見えていたんですけど、次第に多くはない選択肢の中から自分自身で選び始めてきた、自分が意志を持って選べるようになってきた、そういうものが見えました。

成長の速度はスローですし、苦心もしてきたけれど、時間をかけて今にたどり着けた誇らしい自分が見えましたね。

――第3章の「消えてしまいそうなきみへ」は手紙ではなく物語です。そして、「この物語はこのあとのきみの人生を助ける」とつづっていますが、20歳と30歳の間にこの物語を置いた意味はどういうものがあったのでしょうか。

大瀧:この物語は私のスピリチュアルな部分が描かれています。いつ頃書いたのかははっきり覚えていないのですが、確か27歳から28歳の頃で、自分が分からなくて一番苦悩していた時期でした。本当に天から降りてきたような感じで、一気に書いたことは覚えています。

そして、この物語を通して自分は何かに守られている、支えられているという感覚を持つことができました。独自のスピリチュアルを手にできた、精神的な土台を私にもたらしたのだと思います。

――つまりこの物語が土台になったからこそ、その後の人生を乗り越えていくことにつながるということですね。

大瀧:おっしゃる通り、乗り越えられた理由になっていると思います。

――手紙で自分史をたどっていくと、そのポイントで助けられるものを自分がつくっているということが分かりますね。

大瀧:そうなんですよね。それはおそらく、私だけではなくて皆さんもそうなのだと思います。振り返ってみると、当時の自分に助けられていることが必ず見つかります。それが自己治癒であり、自己救済だと思うんですよね。

(後編に続く)

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