自分の会社に人事評価制度を導入しようと考えている経営者は多い。
それはこの制度を導入することで人事評価の基準がクリアになり、どうすれば自分の給料が上がるかが明確になった従業員がやる気を出し、それが会社の業績向上という形でフィードバックされるという期待があるからだろう。
だからこそ、人事評価制度を導入した企業では、社員の公平感と納得感を担保するために、精緻な評価シートづくりをしがちだ。しかし、そもそも人事評価制度は本当に従業員のモチベーション向上や業績アップにむすびつくのだろうか?
『中小ベンチャー企業を壊す! 人事評価制度 17の大間違い』(白潟敏朗著、すばる舎刊)は、人事評価制度にまつわる誤解や、経営者側の過度な期待を指摘し、その本質と意義を問い直す。もちろん、人事評価制度に意味がないわけではない。ただ、過大な期待は禁物だということだ。
たとえば、書店に並んでいる人事評価制度についての本を見ると、「業績向上」や「社員のモチベーション向上」「人材育成」など、この制度を取り入れることのメリットがしきりに喧伝されている。
ただ、「人事評価制度を導入すれば業績が向上する」というのは、経営者側の過大な期待であり、誤解だと本書は指摘する。
人事評価制度で業績が向上するなら、日本中の中小・ベンチャー企業が商品開発・マーケティング・営業などの努力をしなくなります。そのような現象は起きていませんし、常に人事評価制度を構築したり改良している中小・ベンチャー企業もありません。(P59より)
会社の業績向上(利益アップ)は売り上げをのばすかコストを下げるかのどちらかでしか実現しない。経営者としては人事評価制度によって社員のモチベーションが上がり仕事をがんばるようになる。結果として業績が上がると考えるのだが、人事評価制度は「魔法の杖」ではないのだ。
そもそも、新しい人事評価制度で社員のモチベーションは上がらず、上がったとしてもそれは一時的なものだと本書では指摘している。人事評価制度の本質は「モチベーション向上」にはなく、「モチベーションを下げないこと」にあるからである。
誰がどのような基準で評価をしているのか明確ではなかったり、評価結果の説明を受けられない状況では社員のモチベーションは下がる。こうした職場に人事評価制度を導入するのは意味があり、社員を安心させてやる気をなくなせないようにすることができる。
しかし、それはあくまでも「マイナスがゼロになる」だけに過ぎない。現状やる気をなくしている社員には効果的だが、すでにやる気がある社員にとって特にプラス要因にはならない。こうした社員のモチベーション向上には人事評価制度とは別の取り組みが必要となる。
◇
本書では人事評価制度をめぐる様々な勘違いや誤解を正すことでこの制度の本質に迫る。どんな制度もそれ自体に力があるわけではなく、導入してうまく行くかどうかは運用する側の取り組みにゆだねられる。
まちがった思い込みや過大な期待に基づいて人事評価制度を導入しても、決して経営者が思い描いたような運用はできず、望むような効果は得られない。この制度がどのようなもので、どのように運用して、どのような結果が望めるのか。人事評価制度の真の姿を知ることは、すべての経営者にとって必要なことではないか。
(新刊JP編集部)
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