本を知る。本で知る。

「はじめる動機は不純でいい」成功経営者のビジネス哲学

  • 書名 『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』
  • 監修・編集・著者名竹菱康博
  • 出版社名さくら舎

とかくビジネスでは「何をするか」が重要視されがちで、「何をすれば儲かるか」を経営者や起業家は血眼になって探す。

約半世紀の間、経営の第一線で戦い続けている経営者であり、経営コンサルタントとしての顔も持つ竹菱康博氏の著書『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』(さくら舎刊)は、そんな「常識」に一石を投じる。

自身が大切にしてきた経営哲学や、自身が主催する経営者塾で若手経営者に教えていること、これから起業する人に伝えたいことを、経験談を交えて綴るなかで、竹菱氏は「何をするかよりも誰とするか」という「ヒトの重要性」を強調しているが、この考えの根底にある哲学とはどのようなものか。お話をうかがった。

■ビジネスの動機は不純でいい

――竹菱さんは経営者として約50年のキャリアをお持ちです。今回本を書こうと思った背景にはこれまでの経験から培ってきた経営の考え方を下の世代の経営者に伝えたいという気持ちがあったのでしょうか。

竹菱:もちろんそれもあります。ただ事情をお話しすると、私は今から7、8年前まで、知人の紹介で知り合った経営者を対象に経営者塾をやっていたんです。ここ数年はやっていなかったのですが、コロナ禍が始まってから経営に悩む経営者の知人が増えました。そんななかで「もう一度、あの経営者塾をやってほしい」という声をいただいたんです。

「じゃあやろうか」となって大阪と東京でやっていたのですが、そのうちに塾で私が話している内容を本にしませんか、とお声がけいただいたのが今回の本を書いた経緯です。

――会社員を経験せずに起業し、「経営者一筋」でここまでこられたキャリアは異色です。最初に手がけた事業はどんなものだったのでしょうか?

竹菱:これは本には書いていない話ですが、大学を中退して時間を持て余していた時期に、私はたまたま大阪で進学校に行っていたこともあって、近所のおばちゃんから「うちの子の面倒をお願いできないか」と言って小学生の勉強を見てもらえないかと頼まれたんです。それで学習塾を始めたのが最初です。これが結構評判が良くて、生徒が増えたのですごく儲かった。

――ひとりでやっていたんですか?

竹菱:最初はそうです。家の2階の自室で生徒は5、6人くらい。そのうちに近所のガレージを借りて教室にしてから生徒が増えました。

でも、言い方は悪いのですが自分で教えるのが段々と面倒になってきて、妹とその友達を雇って、自分は現場から離れたんです。保護者のフォローだけするようにした。それから教室を増やして、多いときは5カ所くらいで教室をやっていました。

でも、そうするとまたやることがないんですよ。そこで「世界を見てみよう」という気持ちが出てきて、フィリピン、台湾、香港などを何のあてもなく見て歩いているうちに、世界を相手にビジネスをしたら面白そうだなと思えてきて、貿易の会社を立ち上げたんです。

――新しいビジネスのタネを探しに海外に出たわけではなく、まず海外に行ってみた。

竹菱:そうです。行ってみたら「貿易をやるのは面白いかも」って。それだけです。計画性も何もない不純なビジネスの始め方でしたが、ビジネスの始め方なんて不純な動機がはじまりでも、明確な動機がなくてもいいんですよ。それでもやっていくうちにそのビジネスの動機づけができてきて、一つのビジネススタイルが出来上がる。それでいいんだと思います。

――本書でも書かれているように、「人たらし」であることは経営者にとって大きな強みですが、これはその人の資質も大きいように思います。「人たらし」には訓練次第で誰にでもなれるものなのでしょうか。

竹菱:私はなれると思っています。その気になれば性格は変わりますからね。

私も、今でこそ人前で話したりしていますが、小学生の途中までは今でいう「引きこもり」で、家から出ずに世界中の無線を傍受する「アマチュア無線」のオタクでした。でも高校に入ってからできた友達の影響で変わっていったように思います。段々と外向的に人と交われるようになっていきました。

――今経営されている会社ではどのような組織づくりをされていますか?

竹菱:15年くらい前までは昭和の企業風の上下関係が残っていたりもしたのですが、今はもうまったくないですね。そういう時代なんだと思います。

組織づくりだけでなく、人の育て方、伸ばし方も変わってきていますよね。上意下達ではダメで、その人の個性をどう会社組織に融合させられるか、ということを考えないといけないと思います。その一方で経営者はやはりカリスマ性が必要だという思いも持っています。

――組織づくりのお話と重なりますが、ハラスメントを気にして経営者であっても部下にものを言いにくい風潮が年々強くなっているように思います。竹菱さんはこの風潮について苦労されていることはありますか?

竹菱:確かにマネジメント層がハラスメントに腰が引けているところはありますよね。一方で、ハラスメントが「相手の受け取り方次第」になりすぎることには疑問を感じます。

よく「叱る」と「怒る」を区別しなさいという風に言われますけど、上司の側が叱ったつもりでも、相手は理不尽に怒られたと感じるかもしれません。そこは言われた方次第であり、関係性次第なんです。部下との信頼関係ができていないからこそ、上司はハラスメントに腰が引けるんだと思います。

あるいは、実はうちの会社がそうなのですが、部下も上司に好き放題言える環境を作ってもいい。上司が部下にきついことを言うのであれば、部下も上司を好きに言えばいいんです。互いに愛情と敬意を持ったうえで双方向にモノを言える組織はハラスメントが問題化しにくいのではないかと思います。

(後編に続く)

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