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「全てのページが伏線」――道尾秀介が語る新作『雷神』と小説のポテンシャル(2)

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小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた、一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わりに起きた「母の不審死」と「毒殺事件」の真相を明かすべく、故郷の新潟に向かう幸人とその家族たち。過去と現在の2つの物語が複雑に絡み合い、決して交わるはずのなかった運命が交錯する。そして、驚愕の真実が明かされていく――。

道尾秀介さんの最新作『雷神』(新潮社刊)が話題を呼んでいる。道尾さん自身も会心の出来と語る本作は、「全てのページが伏線」というべき緻密な仕掛けが散りばめられており、何度読んでも違った印象を与えてくれる一冊だ。

新刊JPは道尾さんに取材を行い、この物語の成り立ちや新しい表現への挑戦などについてインタビューを行った。前後編の2回構成でお届けする今回は後編だ。

(取材・文・写真:金井元貴)

道尾秀介さんインタビュー前編を読む

■「ラストの一行を原稿の段階から出版するまで変えなかったのは初めて」

――物語の舞台の一つであり、主人公たちの故郷である羽田上村は新潟県にある設定です。モチーフとなった地域はあるのですか?

道尾 :いや、日本地図でこのあたりという見当はつけていますが、完全に架空の村です。

――その村に住む人たちの新潟弁が印象的でした。

道尾 :新潟県の方言辞典を大量に読み込んで、事前に勉強しました。できあがったあとに新潟出身の方にも読んでもらったのですが、一か所も間違いがないと言われて嬉しかったです。

――実は私は新潟の上越地方に所縁がありまして、登場人物の新潟弁にリアリティを感じました。

道尾 :ありがとうございます。最初に標準語で書いてから、新潟出身の方に翻訳してもらうというやり方もあるのですが、それだと自分の作品ではなくなってしまいますし、作品が持つ熱量も変わってきちゃうんですよね。だから、事前に言葉を覚えて、新潟の人になりきって、セリフを書くことを心掛けました。その人になりきって書くと、思い入れも変わりますしね。

――その方言も一つ、物語を左右するポイントになります。

道尾 :そうですね。それも自分で勉強しなければ思いつかないものでした。

――本作は「以前の自分には不可能だった」とコメントされていますが、どういう点でそう感じたのでしょうか。

道尾 :昔の自分だったら、この倍くらい長い小説になるか、読者が読んでも混乱してしまう小説になっていたと思います。でも、デビューして17年経って、複雑に絡み合っていながらも、誰が読んでもすっと理解できる小説が書けるようになったというところですね。

――書き終わった瞬間、手ごたえがあったのではないでしょうか。

道尾 :ありました。ラストの文章を原稿の段階から出版するまで変えなかったのは、初めてかもしれません。結びの文章は大事なので、原稿を読み直したり、ゲラをチェックするうちに変わったりするんですよ。文言自体がまるっきり違うときもありますし、句読点を変えるだけのときもありますし、いろいろあるんですけど、『雷神』はそれが全くなかったんです。

■次々と新しい表現に挑戦する。そのアイデアの源泉とは?

――また、「僕が理想とするミステリのかたちがいくつかあるのですが、そのうちの一つが書けました」と公式にコメントを寄せていましたが、理想とするミステリのかたちとは具体的にどのようなものなのですか。

道尾 :よく聞かれるのですが、なかなか言葉にできないんです。あえて言葉にするなら、もし他の作家さんが書いて、自分が読んだらがっくりと肩を落として小説を書く気がなくなってしまう、そんな作品が、理想のミステリの一つでしょうか。

『雷神』はそういう作品になってくれた。神様が味方してくれたのか分からないけれど、自分では書けないと思っていたものが書けてしまったという感覚です。

――そうなると、一つの到達点を経て次の作品をどう書いていくかという話になると思います。これから書いていきたいこと、挑戦してみたいことはありますか?

道尾 :毎回、それまでの小説になかった新しいことを入れ込むつもりで書いています。本作では、あの画像のページなどですね。読者はそのページを素通りしてもいいし、何か分かることはないかチャレンジしてみてもいい。

また、今年10月に集英社から出る予定の本は6章構成になっているのですが、章を読む順番を自分で自由に決められるようになっています。しかも章ごとに上下反転して印刷されていたりして、出版社としても初めての試みのようで、いろんな部署に確認を取ってもらったり、かなり大変でした。

――それはとてつもない試みですね。

道尾 :6篇から成るので、720通りの読み方ができます。読者によって全く違う話に見えたり、読み心地が違ってくるという小説です。

――まさに小説でしかできないことですね。そうしたアイデアはどのように考えられているのですか?

道尾 :先ほども話したように、夕見という名前やFMラジオと流れ星の関係も、人生でたまたま出会ったこと、勉強したことがつながりあっているわけですよね。

アイデアのおおもとには実体験があるんです。その実体験を小説に落とし込んで、さらに調べたり、いろんな要素を物語に入れて膨らませていく。そうすると、大きな木のように枝葉がのびて広がっていくので、わざわざアイデアの元となるものを探す必要はないんですよね。

――なるほど。すでにもう道尾さんの中に実体験という材料があるというわけですね。

道尾 :ただ材料がありすぎて、どれがピッタリはまるのかが分からないこともあります。マッチする部品同士を見つけるのは大変ですけど、ピタッとはまった時にできあがるものが、どんどん大きく強固になっている実感はありますね。

――素材をストックしていくということは、日々の生活をつぶさに観察しないといけないように思います。

道尾 :意外と日々を楽しんでいれば憶えているものですよ(笑)。僕は楽しみながらいろんなことをやっていて、それが全部小説につながっている感覚があります。

人付き合いも大事です。『雷神』の主人公の幸人は小料理屋の主人で、お手伝いをしている夕見が客からカワハギの肝和えに合う日本酒を聞かれて、「酔鯨」をすすめるんですけど、それも行き着けの和食屋のマスターに教えてもらったことですし。そこからまた話が膨らんで、小説に反映される。

――日々の中にヒントがあるわけですね。今後、小説を通して挑戦したいことはありますか?

道尾 :大枠としてはさっき言ったように、必ず新しいことを取り入れる。それに一作一作のクオリティを、新しく取り入れた仕組みの中で最大限に高めていくということですね。それを確実にやっていく。

小説の持つポテンシャルはすごく大きいものです。小説の中身自体は17年やってきて、自信はあります。次はそれをよりすごいものにしていくにはどうすればいいのか、どう新しいものを入れ込んでいくのかということに挑んでいきたいですね。

――『雷神』をどんな人に届けたいとお考えですか?

道尾 :いろんな世代、いろんな立場の人が楽しめる小説ができたと思っています。老若男女登場して、その中の誰に感情移入するかによって、この物語の印象はまったく変わってくるので、ぜひいろんな人に読んでもらって、感想を聞きたいです。僕が想像しなかった感想もきっとあると思います。

――道尾さんのファンの皆さんにメッセージをお願いします。

道尾 :僕の小説をこれまで全て読んできたという人でも、一番楽しんでもらえると思います。最新作のレベルが一番高いというのは、本来は当たり前のことなんですが(笑)。

全てのページが伏線になっている小説です。だから、1回読み終わったら、2回目に違う印象を受けると思います。余計なものは一文字もありません。全部に意味があります。ぜひ、『雷神』を楽しんでほしいです。

(了)

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