コミュニケーションが上手く、相手の能力を引き出せる人は「聞き方」が上手だと言われることが多い。
では、どんな「聞き方」が良いのだろうか?
それは相手に対しての共感は必要なく、質問をしなくてもいい。ただ、黙って話を聞いている。それが相手の気持ちや考えの整理、そして成長につながるというのだ。
今回は『成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?』(日本文芸社刊)を上梓した社会心理学者の八木龍平さんにお話をうかがい、「聞き方」の極意について教わった。
黙って聞くことのメリットとは一体どこにあるのだろうか?
(新刊JP編集部)
――私自身、聞く力を養いたいと思って本を何冊か読んだりしてきたのですが、いまいち要領がつかめていないんですね。それはおそらくスキルばかり求めてしまって、聞く下地みたいなものができていないからではないかと自己分析をしているのですが、まず聞く力を高めるために、どういうことをすべきでしょうか?
八木:まずは1対1で話す経験を増やすこと。1対1でじっくり相手の話を聞くということをやってみてください。いつも気軽に話している人から始めて、こちら話す時間を減らして、意識的に聞いてみる。
――相手の言葉に口を挟まないということですか。
八木:そうですね。1対1って実はどちらかが話をしないと沈黙ができてしまうので、一生懸命話してしまいがちなんですよ。でも、あえて自分で話すのをやめて相手が話すのを待ってみる。
話を聞くって、実は結構しんどい行為だったりするんです。一方で自分の話をするっていうのは気持ちいい行為なんですよね。だからしゃべり続けているということは、自分ばかり気持ちよくなっているという風にも受け取れます。
なので、あえて自分が話すのをやめて、黙ってみる。これは会社の人間同士でも、家族同士でもやってみるといいと思います。まずはそこからです。
――黙ってみる。なるほど。どうしても「聞く」というと「質問する」というイメージが強いです。
八木:そうですね。沈黙ってラジオ番組で何秒か続くと放送事故だと言われるように、あまり良いイメージがないかもしれないですけど、普段の会話の中で沈黙を共有できる関係って、実は結構良い関係のはずなんですよ。だから、まずは沈黙をしてもいい相手からじっくり話を聞いてみる。
これはちょっと脱線になるかもしれませんが、ビジネスの場でもまずは黙って話を聞いて理解をするというケースが広がってきています。例えばAmazonの社内会議は、プレゼンをするときにパワーポイントを使うのを禁止しているそうです。
パワポが使えないということは、プレゼンでビジュアルを使って説明をできないってことですよね。これまでは、どんなに中身のない提案でも創意工夫をもってパワポの資料を作れば、プレゼンの形にはなった。でも、ビジネスにとって重要なのはプレゼンの上手さ、下手さではなく、その中身ですよね。
――確かにプレゼンがどうであれ、中身は同じです。
八木:だから、あえてプレゼンをさせないで、ワードでドキュメントだけの資料を作らせる。その上でミーティングはその文章を読む、沈黙の時間から始まるんです。その上で、お互い中身を理解したところから議論が始まるわけですが、要するにこれは「聞く」という事から始めているのと同じなんですよ。
――相手の話を「聞く」とは、相手の言いたいことを理解するということであると。
八木:そうです。詳細に理解する。パワポだと細かい部分を飛ばして理解してしまいがちですが、文章って誤魔化しがききにくいですよね。分かりにくい部分も見つかりやすい。だから、しっかりと「聞く」っていうことは、意思決定の質を高める、物事のクオリティを見極めるという意味では大事なことなのだと思います。
――そのお話を聞くと、本書の第1章で「共感力はいらない」と書かれていましたが、それも理解できます。「聞く」ことの目的が意思決定のためであるとするなら、共感力は必要ないですね。
八木:そうですね。共感することで仲良くなれるかもしれないけれど、実はそれが「分かったつもり」にさせている可能性があるんです。実際に、リアルで会ったときと、メールなどでやりとした場合のコミュニケーションを比較した研究があるのですが、会って話したほうが中身は伝わると思っている人は多いと思います。
でも、違うんです。リアルで会った方が分かった気になっていて、インターネットのコミュニケーションの方が、理解度が高かったんです。
――それは意外です...!
八木:相手の言っていることを一方的にしっかり受け止めたほうが、理解度は高まる。共感はむしろ理解の邪魔になっていて、理解した気になっちゃうんですよね。それは物事をちゃんと理解する上での一つの罠なんです。
――ただ、相手の話に対して、話し終わるまで沈黙を貫くってすごく難しいと思うんですね。分からないことがあったら聞きたいじゃないですか。そんな不安な状態に耐えられるかなと。
八木:それがこの本で言っている「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念ですね。分からない状態に耐える力です。
これはカウンセリングなどの分野で人の悩みを解決する手段として注目された手法なのですが、カウンセリングって、スラスラ話をする人にはあまり効果はなくて、頭の中がこんがらがった状態でたどたどしく話す人の方が、効果があるんです。
そのとき、カウンセラーは分からない状態でいなくてはいけない。でもそれに耐えることによって、相手の中で未解決になっているものをもっと話してもらいやすくなるんです。普通、頭の中でまとまっていないわけのわからない話をしたら、怒られるじゃないですか。
――「何が言いたいの?」と言われますよね。
八木:そうそう。それで空気が凍りつくみたいな。でも、それでは相手の奥底にある本音を引き出すことはできません。話を聞く側が分からないことに耐えることで、すごく優しい世界になるし、心が安定するんですよね。
――分かります。ただ、どうしてもそういう時って聞く側に立つとすぐに解決法を提示したくなるんですよね。
八木:そうですね。でも、聞いているだけで、相手が自分の中に解決法を見つけることもしばしばありますよね。
――相手が悩みを相談してくるときって、自分が何かしら答えを提示しないといけないんじゃないかと思ってしまいます。
八木:お金を払って問題解決を依頼されるコンサルタントなら、答えを提示しないといけません。でも、日常的なコミュニケーションの中でそういう機会があっても、必ずしも答えないといけないというわけではないと思います。もちろん、答えられることは答えるべきですが、答えを持ち合わせていない場合は、無理やり話す必要はないんじゃないでしょうか。
仮に自分が答えを持ち合わせていない、分からない状態であっても、それで自分は価値がないと判断する必要はありません。
――八木さんがおっしゃる通り、答えられないと自分は価値がないと思ってしまうんですよね。
八木:それは大丈夫です。極論を言うと、隣で黙って呼吸をしているだけでいいんですよ(笑)。心臓の鼓動が安定している人って、周囲の人たちを安定させる効果があるそうなんです。聞くということについて、黙っていても価値はあります。むしろ解決方法を見つけなくちゃと焦ってしまうほうが良くない。
確かに空白は埋めたくなるものですよね。問いを出されると、その答えを埋めたくなるのは人間の習性です。ただ、相手は誰かに話していることによって、心が安定したり、成長をしたりするものですから、無理に口を挟んで成長を邪魔しないようにしたほうがいいと思います。
(後編に続く)
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