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コロナ禍で苦しむ経営者が知るべき伝説的コンサルタント・一倉定の教え

  • 書名 《新装版》第1巻 経営戦略 (一倉定の社長学)
  • 監修・編集・著者名一倉定
  • 出版社名日本経営合理化協会出版局

今から45年前、1975年に刊行され、今なお日本の経営者たちに読み継がれている本がある。伝説的経営コンサルタント・一倉定(いちくら さだむ)氏による「一倉定の社長学シリーズ」(2017年に〈新装版〉として復刻、(日本経営合理化協会出版局刊)刊)である。

全10巻、総額10万円を超えるこのシリーズが、刊行当時から今に至るまで、「経営のバイブル」として絶大な支持を集めている理由の一つが、一倉氏の説く「経営の原理原則」の普遍性である。

今回はこのシリーズの出版元である日本経営合理化協会専務理事で、20代の頃から一倉氏の薫陶を受けてきた作間信司氏にインタビュー。一倉氏の「社長学」が古びない理由、そしてドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏やユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏などそうそうたる経営者たちが一倉氏を頼った理由についてお話をうかがった。

■「絶対に倒産させてはいけない」今こそ経営者が学ぶべき一倉定の教え

―― 一倉先生は徹底的に「日本の中小企業の社長」に寄り添ったコンサルタントで、「〈新装版〉一倉定の社長学シリーズ」にも国内の中小企業経営者への教えが綴られています。一倉先生が「中小企業」と「経営者」にこだわり続けた理由はなんだったのでしょうか?

作間:先程のお話にもあったように、会社は99.9%社長で決まるもので、社長がまちがえたら全てまちがえると一倉さんが考えていたことがまず一つあります。

一倉さんご自身、コンサルタントになる前に何社かに勤めたことがあるのですが、そのうちの4社が倒産していますから、どんなに生産性の高い工場を持っていても、経営戦略が失敗したら倒産するというのを、身をもって知っていたんです。そして、中小企業の多くはオーナー企業で、社長の力が大きいですから、彼らがまちがったことをしても、社内に誰も止められる人間がいません。

――だからこそ、彼らを教育する必要を感じていたんですね。

作間:そうですね。もし倒産させてしまったとして、被害を被るのは、得意先もそうですが、一番は従業員じゃないですか。まして地方だと、倒産したからといって次の仕事を探そうにもなかなか難しい。それと同時に、中堅企業、中小企業はその地域の経済を支える存在でもあります。だから「絶対に倒産させてはいけない」と常々言っていました。

――「会社を潰さないこと」を徹底して指導したという一倉さんですが、潰さないためにどんなことを教えていましたか?

作間:やはり中心はお金のことでしたね。一つ具体的にあげると、4月1日に新しい期が始まる時に、翌年の3月31日に決算がどうなっているかという一年後の決算書を作りなさいと言っていました。

損益計算書だったら、たとえば経費をこういうことにこれだけ使って売り上げを20億作って、1億5000万円利益を出しますよ、というようなことをあらかじめ書いてしまう。つまり、この一年でどんなことをやって、一年後に会社がどうなっているのかというのを期が始まる時に決めておくんです。そして、その通りに経営する。

――あらかじめやることを決めてしまう。

作間:そうです。単年度のバランスシートを作っておいて、そこに向かって突き進むというやり方です。もちろん、ビジネス環境が大きく変わったりしたら手は打たないといけませんが、色気を出して計画より二人多く採用しよう、とか安い機械が出たから買ってしまおう、とか計画にないことをやってしまうと、万が一の時に資金ショートを起こしやすくなるので。

――その通りになるんですか?

作間:その通りになることなんてめったにありませんし、ならなくていいんです。ただ、そうやって計画を立てて実行するということを繰り返していかないと、会社にお金は貯まらないんですよ。

そして、もし計画と違った結果になったら、なぜズレが出たのかを検証するのが社長の仕事です。これを毎年繰り返していると、どこでズレが出るのかがわかってきますから、だんだん精度が上がってきますし、マーケットをシビアに見られるようになって、市場や顧客動向の変化を察知する力がついていきます。

――今は「会社を潰さない」がすごく難しくなっている状況かと思います。今戦っている中小企業の経営者に一倉さんの教えの中からアドバイスするとしたらどのようなものになりますか。

作間:新型コロナウイルスの流行がいつまで続くのかという問題もあってなかなか難しい質問なのですが、結局は資金を潤沢にしておくことしかないんだと思います。会社が潰れるかどうかというのは資金の問題なので。

私のところにも2月くらいの段階で何社かの経営者の方から相談があったのですが、普段から付き合いのある経営者だと、だいたい会社の状態や懐具合はわかるので、それを踏まえて銀行から融資を受けるようにアドバイスしました。

というのも、一倉さんも「危機的状況の時の資金は損益に優先する」と教えていたんです。儲かる儲からないなどというのは後回しで、とにかく会社を存続させるために手元に資金を確保する。経営者って、手元資金が枯渇してくるとまともな経営判断ができなくなってくるんですよ。だから、今経営者の方々にお願いしたいのは、たとえ無借金経営で会社の資金が潤沢にあったとしても、むこう3年くらいは耐えられるだけのお金を借りていただきたいということです。そして、今回のコロナ禍を教訓に、常にリスクへの備えを忘れないでいただきたいと思います。

――作間さんは一倉さんを間近で見られてきた方ですが、どんな方だったのでしょうか。人柄や考え方、行動原理などについてお話を伺いたいです。

作間:とにかく厳しい方だったのですが、その一方で人に教えるのが大好きな方でした。努力している人やしつこい人、自分の教えを真剣に実践している人にはとことん一生懸命指導する方でしたね。

カミナリを落とすのは、大抵自分で考えたり実践したりせずに、「答え」だけ聞きにくる人でした。市場を見て、顧客を見て、顧客のためにできることをやり尽くして、それでもうまくいかないという時に、なぜうまくいかないのかを考えるのは経営者の仕事です。そこでとことん考えて、解決案としてA案B案C案を思いついた。俺はB案でいこうと思うんだけどどう思うか、というような聞き方をする人には喜んで相談に乗っていました。

――最後に「一倉定の社長学シリーズ」について、読者となる経営者の方々にメッセージをお願いいたします。

作間:買っていただいて終わりではなく「買った時がスタート」ということはお伝えしたいです。買うだけではダメですし、読むだけでもダメです。少しずつでもいいので、本に書かれていることを自分なりに実践してみることで、本当の意味で教えが血肉になるのだと思います。迷った時や困った時に経営者が立ち返る場所が、このシリーズであったら幸いです。

また、成功すると人間はどうしても「自己中」になっていくものです。自分自身や仲間の経営者を冷静に見る「鏡」としても使っていただきたいですね。

(新刊JP編集部)

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