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整形外科専門医が指摘「人生100年時代」に知っておくべき腰とひざと股関節のこと

  • 書名 『腰ひざ股関節シンドローム 100歳までシャキッと歩くために知るべきこと』
  • 監修・編集・著者名三輪道生
  • 出版社名幻冬舎

多くの人が100歳近くまで生きる現代、そこで問題になるのは「いつまで健康でいられるか」という健康寿命です。そして誰しも、できることなら最後まで自分の足で歩きたいもの。人生において大切なのは「歩行寿命」なのではないでしょうか。年齢を重ねれば腰やひざ、股関節などに不調が出るのは避けて通れないことです。しかし年を取って歩けなくなっていくことを仕方のないことと諦めてしまう人がほとんどです。

加齢により腰ひざ股関節に痛みが出たり曲がったりして歩けなくなっていく現象を「腰ひざ股関節シンドローム」と名付け、痛みが出る原理や対処法について記しているのが、腰・関節手術の名医として知られる三輪道生医師の著書『腰ひざ股関節シンドローム 100歳までシャキッと歩くために知るべきこと』(幻冬舎刊)です。

いったい、なぜ腰やひざ、股関節は痛みが出たり、曲がったりするのか、腰痛や坐骨神経痛の原因は何なのか、痛みが出てしまった時はどうすればいいのかなど、三輪医師にお聞きしました。

■一度壊れた関節は自然に回復しない「人生100年時代」に知っておくべき腰と関節のこと

――『腰ひざ股関節シンドローム 100歳までシャキッと歩くために知るべきこと』を通して三輪先生が伝えたいことについて教えてください。

三輪:この本は、腰、ひざ、股関節の一生の解説書として書きました。各部の構造から、痛みが出る原因、そして対処の方法まで、普段患者さんから質問されることや外来で説明することをそのまま本にしてみました。

痛みを抱える方にまず知っていただきたいのは、痛みが出る原因には2つあるということです。ひざや股関節のように、関節の軟骨がすり減って、骨が露出して痛みが出るパターンと、腰部脊柱管狭窄症のように関節の変形によって神経が潰されて神経痛が出るパターンがあります。

多くの方は痛み止めやサプリメントを飲んだり、筋トレをしたり、色々なことをされていると思うのですが、ひどくなってしまったら、運動で筋肉をつけてもマッサージをしても治ることはありません。

たとえばひざの軟骨がすり減って痛みが出ている状態を変形性ひざ関節症と言いますが、悪化してしまったら、関節を人工関節に取り替えるしかありません。逆にいえば、虫歯の治療と同様に軟骨が削れて露出してしまった骨は、手術で覆ってしまえば、痛みも変形もなくなり、何歳になっても自分の足で歩いていられるようになります。この本を通して痛みや変形、腰痛や坐骨神経痛は手術で治るということを伝えたいのです。

――壊れた腰やひざ、股関節の痛みを完治させようと思ったら、最終的には手術、ということでしょうか?

三輪:そうですね。壊れたら、ちゃんと治すには手術しかないですね。手術というとみなさん怖がるのですが、合併症さえ出なければ、かなり高い確率で治るということを知っていただけたら嬉しいです。腰の手術をして車椅子生活になる人や、人工関節手術をして痛くて歩けなくなる人は、今はほとんどいません。

――手術で治らないというケースもあるのでしょうか?

三輪:たとえば脳卒中などで手足に麻痺が出ることがありますが、腰の故障でも脊髄が圧迫され、麻痺が出て、足が動かなくなってしまうことがあります。このように神経が死んでしまうと、手術では治せません。

また、ひざでも、関節軟骨がすり減るだけでなく、その下の骨まで削れすぎてなくなってしまうと、人工関節を設置できなくなってしまいます。手術には適切な時期があり、それを逃すと手遅れになってしまうことがあるのです。

――ひざや股関節では軟骨がすり減って痛くて歩けない場合、人工関節手術をすれば痛みが取れ歩けるようになるが、悪化しすぎると手術できないこともあるということですね?

三輪:そうです。軟骨に覆われていた骨が、あまりに削れすぎると、人工関節を設置する土台がなくなってしまうんですね。ただ、絶対に治らないということではなくて、それに応じた機種を使って治すしかないのですが、術後の機能はかなり劣ってしまいます。

――人工関節の機能はどれほどのものなんですか?たとえば、あぐらをかいたりすること はできるのでしょうか。

三輪:ひざでは人工関節を入れたあとの曲げ伸ばしは、リハビリ次第というところですが、本人が頑張ればあぐらはかけると思います。ただ、正座はできません。和式トイレでしゃがむような体勢もできない方はいらっしゃいますね。外国人のようにベッドとイスの生活になると思ってください。

変形性股関節症に対する人工股関節置換術では、痛みや跛行など、ほとんどの症状がなくなり、通常何でもできるようになりますが、脱臼しやすい体勢があるので、それは避けていただく必要があります。

――ところで人工関節は死ぬまで持つのでしょうか。

三輪:耐用年数という言葉を使って説明しているのですが、計算上、人工軟骨が摩耗し切るには30年から50年くらいかかるとされています。これは、自然の関節の軟骨と同じで、自分の体重を支えているものですので、少しずつすり減っていきますし、すり切れたら入れ替える必要があります。

当然、激しい運動をしたり、重労働をしたり、あまりにも体重が重いとすり減りやすいので、 基本的には若くて活動量が多い方には人工関節は使えません。

――60歳以上の方であれば人工関節を入れたとしても一生大丈夫そうですね。

三輪:その通りです。転んで脱臼したり、人工関節と骨の接着が剥がれてグラグラしたり、バイ菌が入ったりしなければ、あとは人工軟骨のすり減りだけなのです。

――三輪先生のところに腰やひざ、股関節のことで相談に来る方は何歳くらいの方が多い んですか?

三輪:70代から80代の方が多いです。痛みや変形の患者さんは年齢に比例して増えますし、当院では特に高齢の患者さんの合併症対策に力を入れているので、比較的に高齢者が多いと思います。

合併症の出やすい80歳以上の患者さんは全身管理が必要なので、整形外科で断られることが結構多いと聞いています。誰しもリスクを背負いたがらないのは当然と言えば当然かもしれません。

――手術を断られるんですか?

三輪:高齢の患者さんは何件も回ったが治らないという方が多いです。確かに高齢になると体力的に手術に耐えられない可能性もあり、合併症に注意しなければいけません。私は、体力面や内臓の状態を徹底的に調べたうえで、よほど心臓が悪い場合を除いて、手術をできる限り引き受けるようにしています。

残念ながら全身状態によっては手術に耐えられないと決断をすることもあります。重症でない場合はもちろん手術以外の治療を行います。骨折などでは手術をしないと痛みも取れないし動くこともできないので、100歳を過ぎている方でも手術をせざるを得ないことも少なくありません。合併症が出ず、リハビリを頑張れば、高齢でも手術で痛みが取れ、歩けるようになります。

健康寿命という言葉がしきりに言われていますが、人生は健康で自分の足で歩けてこそだと思うのです。寝たきりで長生きしても充実感を感じられるとは思えませんし、痛みを抱えながらの人生では幸せを感じるのも難しいでしょう。手術により、痛みなく一生歩いていられるということは可能ですし、そこをお手伝いできたらと思っています。

(後編につづく)

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