企業にとって、永遠の課題ともいうべき人材育成。
企業が着実に業績を伸ばし、発展するためには、社員一人ひとりの成長が必須だ。社員自らがセルフマジメントを実践し、合わせて部下や後輩の育成が出来るようになる仕組みが運営されるようになれば、社長の想いが社員一人ひとりの行動に反映され、業績を上げ続けることが出来るようになり、会社の経営は盤石になるだろう。
しかし、多くの企業はその仕組みを持っていないのではないか。「会社の成長に大切なのは人だ」と分かっているつもりでも、仕組みがないがゆえに自分勝手な行動をする社員や、指示待ち社員が育ってしまう。強い会社を創るために「自ら考え行動し、より良い結果を出す」ことが出来る社員を育成する仕組みづくりが大切だ。
社員一人ひとりがワクワクと働き、確実に目標を達成するための仕組み「自創経営」を提唱する自創経営コンサルタントの東川広伸氏は、360ページに及ぶ大著『経営ビジョンを実現し、社員一人ひとりが幸せになる 自創経営「人材育成」の仕組み』(日本実業出版社刊)で、セルフマネジメントの出来る社員であり、人の育成マネジメントが出来る社員を育成する仕組みとノウハウについて、あますことなく書きつづっている。
本書の読者層は多岐に渡っている。経営陣や幹部だけでなく、リーダーやプレイヤーまで、全社員がセルフマネジメントの出来る人になるための方法が書かれている一冊だ。
例えば、全社員の成長のために社長が果たすべき役割について。
本書には、会社の進むべき方向性を分かりやすく、何度も説明し、納得させる「説明責任」を果たさなければいけないとある。
会社はある一つの理念を共有し、ある一つの目標に向かって、全員で突き進んでいく組織体だ。その理念や目標が社員に理解されなければ、組織は活性化しないだろう。社長はそれを発信し、取りまとめ、一枚岩にすることが求められる。
そこで重要なことは、全社員が会社の未来の姿を具体的にイメージできるということ。経営ビジョンを社員と一緒につくるのだ。社員が会社の将来像をイメージする中で、自分がワクワク働いている姿がイメージ出来ればしめたもの。将来どのくらいの規模の売上になっているのか、どんな新規事業が立ち上がっているのかといった、数字やイメージの具体性があると説得力が増す。
イメージが湧くような説明ができなければ、人は腑に落ちた状態で行動することはできない。全社員がセルフマネジメントできる組織にするには、社長の説明責任が大きな鍵となるのだ。
本書の特徴は、セルフマネジメントの出来る社員を育成するための様々なツールが差し込まれていることだ。これは社員の育成に取り組むマネージャーやリーダー層にとって、心強い武器になる。
例えば年間目標を管理するための「チャレンジシート」(本書p162-163)。A3用紙1枚の中に、3つの目標を上長と部下が対話しながら、部下自ら書き込んでいく。 その3つとは「仕事の成果・業績」「職務の拡大・人材育成」「能力向上」のこと。ただ単に仕事の成果だけを意識させるのではなく、自分の仕事の影響範囲を広げ、スキルアップという3方向でマインドセットさせ、能力を拡げていくのだ。
また、このチャレンジシートの作成に必要不可欠なのが「成長対話」である。本書では、主任務の作成時と各目標の設定時・計画の策定時と7回の対話が必要だとしている。そう聞くと「じっくり」という印象を受けるが、大切なことは対話回数よりも、第三者の視点によって本人がどれだけ多くの気づきを得られるかということだ。
本人だけの視点になると「すでに出来ること」ばかりが羅列されるが、第三者の視点が入ることで、自分が「出来るように成る必要があること」に気づくことが出来るようになる。本書ではこのチャレンジシートでどんなことを記入すべきかが丁寧に書かれているのでぜひ参考にしてほしい。
また、チャレンジシートに掲げたそれぞれの年間目標を必達するために、月間目標、週間目標へとブレイクダウンし、さらに日々の実行計画にまでつながりを持たせ、その実行計画の中に成長業務を入れるツールがランクUPノートだ。このノートは単なるスケジュール帳ではなく、セルフマネジメントの出来る社員へと育成するツールだ。このツールを活用した独創的な1on1ミーティング「成長対話」が行われることによって、会社が劇的に変化することが想像できる内容となっている。
また、最終章には社会人としての基礎づくりの3面が掲載されているが、これが現代の社会人が忘れかけている何かを思い出させ、社員一人ひとりの行動が変わるだろう。本書は単なる読み物ではなく、社員を立派な社会人へと育成する教育の書であるともいえる。
◇
経営にとって本当に必要なものは何か。会社が大きく成長するためには何が必要なのか。本書を読んでいくとそれが見えてくるだろう。
本書には社員がセルフマネジメントを行えるようになるための具体的なツールやノウハウが多く詰め込まれている。そのため、極端なことを言えば明日から会社に導入することも可能だ。ただし、ここで必要なのがすぐにやめないこと。社員がしっかり成長するまで続ける覚悟を示すことが社長の役割になる。これが強い会社になるかどうかの一つのカギになるだろう。
このコロナ禍という予期せぬ事態の中で、社会の行く先はさらに見えにくくなった。会社の舵を取る社長、その方向に向かうために自ら考えて動く社員たちが一枚岩となるために必要なことが、本書には書かれている。
(新刊JP編集部)
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