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夫婦を揺るがす「産後クライシス」 回避のために知るべきこと

  • 書名 『知っておくべき産後の妻のこと』
  • 監修・編集・著者名東野純彦
  • 出版社名幻冬舎

出産後の妻がふさぎこんでいたり、冷たかったり、ささいなことでイライラしたり。
産後の女性に訪れるこうした変化に戸惑う男性は多いはず。

『知っておくべき産後の妻のこと』(東野純彦著、幻冬舎刊)は、この時期の女性の心身に何が起きているのか、この変化に対応するためにパートナーの男性はどんなことを知り、どんな風に接すればいいのかを解説する一冊。

今回は著者で産婦人科医の東野純彦さんにインタビュー。産後の女性に起こる変化と、それが夫婦関係に与える影響についてお話をうかがった。

■夫婦を揺るがす「産後クライシス」とは

――『知っておくべき産後の妻のこと』について聞いていきます。産前産後のホルモンの分泌による女性の変化について、男性側はぼんやりと「そんなことがある」とは知っていても、なかなか詳しいところまではイメージできません。この女性の変化はどのようなものなのでしょうか。

東野:妊娠中の女性は、胎盤からエストロゲンという女性ホルモンがものすごくたくさん分泌されます。多くの女性ホルモンは卵巣から出るものなのですが、エストロゲンは胎盤から出ます。

そのエストロゲンなのですが、胎盤は出産の際に体外に出ますから、赤ちゃんを産むと分泌量が大きく下がります。それによって起こるのが、俗にいう「マタニティブルーズ」です。マタニティブルーズは誰にでも起きるのですが、個人差が大きくて、症状が軽い人もいれば、そうでない人もいます。まずこのことをパートナーとなる男性の方々には知っていただきたいのです。

――どのような症状が出るのでしょうか。

東野:具体的には夜眠れなかったり、元気が出なかったり、という症状です。これが出産して2、3日経つと出てくる。人によっては「こんなもんかな」と思えるし、「思ったよりもつらい」と感じる人もいます。

ただ、これは胎盤がなくなったことによって起こる一時的な変化なので、だいたいの人は2週間くらいで元に戻ります。

――自然に元に戻るんですね。

東野:どちらかというと「慣れてくる」というのに近いです。2週間ほどで、赤ちゃんとの生活に折り合いがついてきて、新しい生活になじんできます。

ところが、この2週間のマタニティブルーズを乗り越えられない人が、約1割ほどですがいますね。それが、よく言われる「産後うつ」です。この産後うつを何とか減らしたいというのが、今回の本を書いた大きな理由です。

――今回の本では、マタニティブルーズや産後うつをきっかけに夫婦の関係が悪化する「産後クライシス」が一つのテーマになっていますが、女性の産後の変化が夫婦関係の悪化にどう関係するのでしょうか。

東野:まずはオキシトシンというホルモンの影響を知っていただきたいです。これは俗に「愛情ホルモン」と呼ばれるのですが、授乳の時とか陣痛の時、出産の時に大量に分泌されます。

このホルモンによって、女性は赤ちゃんが産まれた瞬間から愛情を感じることができて、授乳のたびに幸せな気持ちになります。それは頭で感じるのではなくて、自然にそういう気持ちが湧いてきます。

ただ、オキシトシンは強いホルモンで、愛情を感じて「産まれた子を守りたい」という気持ちが、妨害するものは「敵」とみなして排除しようという気持ちに結びつくことがあります。

――そこで夫やパートナーの男性が「敵」だと思われてしまうことがある。

東野:そうです。男性は女性と違ってオキシトシンはあまり分泌されません。今はコロナウイルスの感染拡大の影響で立ち会い出産はできないのですが、立ち会いができたとしても、男性は女性とは違って、自然に子どもへの愛情が無条件に湧いてくるわけではなくて、頭で考えて愛情を持つ。この違いは実は大きいのです。

この違いがどうあらわれるかというと、オキシトシンが大量に分泌されている女性たちは、パートナーの男性の言葉や態度を敏感に感じ取ります。何気なくかけられた言葉ひとつにイライラしたり、怒りを覚えてしまうことがある。たとえば、夫が子育てや家事で大変そうな妻を見て「手伝おうか?」とか「がんばって」と言うでしょう。これって実は産後の女性からしたら最低の言葉なんですね。

――そうなんですか?私は男性ですが何の気なく使ってしまいそうです。

東野:産後の不安定な女性からしたら、「がんばれよ」っていうのは「俺はがんばらないけど、おまえはがんばれよ」と聞こえますし、「手伝おうか?」も、他人が上から救いの手を差し出しているように思えて、当事者意識がないように感じられることが多いんです。だからこれらの言葉は言わない方がいいです。

こういったコミュニケーションのズレによって夫婦の関係が悪化してしまうことがあって、これを「産後クライシス」と呼んでいます。出産直後の時期は、その後の夫婦関係の分かれ道なんです。

(新刊JP編集部)

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