「妻が夫との愛を支え抜くのは忍耐であるといわれる。しかし私のような妻でない女が恋人との愛を守り通すのは情熱以外にはない」
「私が少なくともこれまでの生涯、自分の情熱だけはいつかわらず正直に生きてきたといえる」
これらは尼僧であり、小説家の瀬戸内寂聴氏の言葉だ。 多くの恋をし、それを失い、人を傷つけ、そして傷ついてきた寂聴氏が自らの愛の経験を綴るのが『ひとりでも生きられる』(瀬戸内寂聴著、青春出版社刊)だ。
瀬戸内寂聴氏が自身の半生を振り返り、生きること、愛することの意味を、妻とは、夫とは、人を愛することとはなど、男と女の本質に迫る数々の名言を交え、すべての女性に向けて説いていく。1973年に刊行された新装復刊版となる。
多くの経験をしてきた寂聴氏は愛について「人は別れるために出逢う」という一語につきる、と述べる。では、寂聴氏にとって「別れ」とはどのようなものなのか。
「別れも愉しい」という言葉があるが、ほとんどの人はそう感じられない。
寂聴氏にしてもそうで、どの男性との別れに対しても「愉しい」という気持ちを抱いたことはなかった。別れはいつも辛く、みじめで、苦しさに満ちたものだったという。そして、どちらかにとって、別れは必ず理不尽に襲いかかるものでもあった。これは恋愛経験のある人は誰もが経験のあることだろう。
この痛みや苦しさから立ち直るには、残酷なことだが「時間」しかない。そして、ある日ふと気がついたとき、あの痛い苦い別れさえ、懐かしい情感とともに想い出されていくものなのだ。
何歳になっても、そして家庭があったとしても、ふと訪れた恋に心が躍るのは人間の性なのかもしれない。中年過ぎてもなお、恋を諦められないときは、いつでも別れの覚悟をしっかりと心にたたみこんで恋人に逢うべき。別れた後で懐かしがられる女になろうとするより、現在なくてはならない女になることが女性にとって幸福である。愛とは現在にしかないものだ、と寂聴氏は述べる。
こういった恋愛をする女性へ向けた言葉の数々は、多くの人生経験を積んだ寂聴氏だからこそ、伝わるものになるのだろう。
人として、女性として、強く生きる瀬戸内寂聴氏の愛について綴られた本書。有名人の不倫が発覚したらすぐにSNSが批判のコメントで溢れる今、愛と情熱について語る氏の言葉は際立つ。
(T・N/新刊JP編集部)
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