優れた「エース」が一人いる組織よりも、各セクションが「チーム」として機能している組織の方が強い、というのはほとんどの組織人が共感できるのではないか。
そう、仕事で大事なのは「優秀なエース」ではなく「チームワーク」なのだ。だからこそチームプレーができる人間かどうかが採用活動やチーム編成できわめて重要になる。
ただ、ここで疑問があらわれる。
「チームプレーができる人間」とはどんな人間なのだろうか。
「仕事はできるが、周りをいらだたせる人」はどうだろう?「周りとうまくやるが、課されたこと以上のことはまったくやらない人」は?
そして、どこを見れば相手の人となりがわかるのだろうか?面接で「あなたはチームプレーができる人ですか?」と聞けば、嘘でも皆「YES」と答えるのに......。
『理想のチームプレーヤー――成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』(パトリック・レンシオーニ著、樋口武志訳、サンガ刊)は、ある建設会社の危機と、それを乗り越えるまでの取り組みを物語として書くことで、この問いへの答えを示している。
叔父に病が発覚したことで、急遽彼が経営していた建設会社バレー・ビルダーズ社(VB社)のCEOに就任することになったジェフ・シャンリーだったが、就任にあたり同社の現状を知った時、がくぜんとする。
野心的な経営者だった叔父は、大型の案件を2件同時に受注し、同時並行で進めようとしていた。これは叔父自身ですら経験したことがない、会社にとって初めての挑戦だった。建設業界の経験が浅く、どちらも成功させる自信がなかったジェフは、どちらか一つに絞ることはできないのかと叔父に問うたが、VB社はすでに振り込まれている報酬を、現在進行中のプロジェクトの仕上げにつぎ込んでおり、なおかつ契約を取り消すことで莫大な資金を失うことがわかった。つまり、事態は引き返し不可能だったのだ。
ジェフは長年叔父を支えていた2人の側近――人事のクレア・マシックと、工事現場を統括するボビー・ブレディ――とともに、難局を乗り切る方策を探る。
しかし、そもそも人が足りない。2つの大型案件をこなすには今の人員に加えて、2カ月以内に現場監督やプロジェクトマネージャー、作業員など60人を揃える必要があった。しかし、ここでクレアが「60人必要なら80人採用すべき」だと主張する。VB者は離職率が高かったのである。
3人は、人材を採用するにあたって、職員が離職する元凶になっている数人の人間(仕事はできるが愛想が悪く、周囲の人間を不快にする現場監督、人当たりはいいがハングリー精神に欠ける職員など)の人となりを分析することで、「チームプレーができる人」としてVB社が必要とする人材の特性を
・謙虚(誰に対しても態度が変わらず、自分の非を認めることができる)
・スマート(対人関係で人に不快な思いをさせない)
・ハングリー(仕事に熱意を持ち、課されたこと以上のことをやる姿勢がある)
と結論づける。
ただ、これで問題が解決するわけではない。謙虚さもスマートさもハングリーさも、どうやって判断すればいいのだろうか?誰だって採用面接では好印象を持たれるように自分を取り繕うというのに。
たとえば、ボビーの片腕として採用しようとしていたテッドという建築業の経験豊富な男性は、人当りはよく仕事への熱意も伝わってくる。ただ、謙虚さについては、ジェフらは確信を持てずにいた。一見すると謙虚そうに見える。でも、ジェフら重役相手に面接をすれば、誰だって自分を取り繕うものだ。何かが引っかかるジェフだったが、そこで朝、やってきたジェフに対応した事務職員が気になる証言をする...。
◇
謙虚さとスマートさ、ハングリーさ。
本書では、これをチームプレーができる人の要件だとしている。でも問題はその先だ。
どうやって採用候補者の中から、その要素を見極めるのか。どんなことを質問すればいいのか。どこを見ればいいのか。
本書では、その点まで踏み込んで解説していくが、もちろんただの小説ではなく、ビジネスの現場で使えるための実戦的なアドバイスも紹介されている。
チームビルディングに悩むマネジメント層や人事担当者にとっては、学びが大きい一冊ではないだろうか。
(新刊JP編集部)
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