コロナ禍の最中、『ブ・デ・チ』(幻冬舎刊)という小説がドロップされた。
ブス・デブ・チビの頭文字をとって「ブデチ」というあだ名をつけられた女子中学生・神山エリ。しかし、彼女は泣きまねをしたり、悲しむふりをしたりしているだけで、いじめっ子たちを慈愛の眼差しで見つめていた。
エリの存在は「生きる意味」を強く考えさせられる。
彼女は一体何を考えているのか? そして、彼女の正体とは? そして、この物語は何を伝えようとしているのか?
物語を執筆した鶴石悠紀さんへのメールインタビュー。ここでは「神山エリ」という存在を通して、物語の核心に迫っていく。
――主人公の神山エリという存在は不思議です。その正体が読者に明らかになるまでの中でも、全てを慈愛で包むような眼差しをいじめっ子たちに向けており、不思議な魅力を持つ女の子でした。このキャラクターはどのように作ったのですか? モデルなどはいるのでしょうか?
鶴石:霊的な進化の世界では、多次元の霊界があり、もっとも進化した霊体は、8次元霊界に属していると言われているのです。大日如来や薬師如来、釈迦如来は8次元霊界に存在すると神智学では説いています。
菩薩は、1ランク下の7次元霊界の存在だと言われていますが、そのクラスになるとふたたび人間界に産まれてきて修行する必要はないと考えられていますが、私はあえて、7次元霊界の文殊菩薩でもさらにもう1段階の霊的進化のために産まれてくる事はあるのではないかと設定しました。
そうすると、それだけ進化した高度の仏的存在は、人間として産まれてきたときに、どういう目的、あるいは命題を進化のテーマにするだろうなと想像しました。モデルはいません。
――「いじめ」から「成長」へ、そして人間としての「成熟」が描かれていますが、執筆を進めていく中で掲げていた「テーマ」はなんだったのでしょうか。
鶴石:回答は前の質問で述べています。霊的進化のために、文殊菩薩といえども、様々な体験を自己の成長の糧にするのです。
――物語の核となる、エリの思考を読み解く上で重要な仏教の世界観は、今、世界が混沌としているからなのか、とても響くものがありました。こうした世界観を物語に取り入れるに至った経緯、題材にするに至った経緯があれば教えてください。
鶴石:詳しくは前編でお答えしていますが、自分の座禅修行の中で、霊的な体験をしたことで、自信を持って刮目したからです。
――一人の「いじめられっ子」の物語ではなく、登場人物たちが成長し、それぞれの人生を歩んでいることが描かれていることも嬉しかったです。鶴石さんの中でお気に入りのキャラクターはいますか?
鶴石:太一をどう書くかと色々考えました。凶暴な霊的な資質を持って生まれてきた人物も、その凶暴にいたる経験があるはずだと考えて、モンゴル兵に遭遇させました。
そこから、凶暴性が何度も生まれ替わりながらひどくなると言う設定にし、文殊菩薩は普通なら手に負えない凶暴な霊体を正しい進化の軌道に乗せるべく指導するという役目を高次の仏として目指すはずだと考えました。
――もう一つ、「音楽」というモチーフもこの物語から欠かすことができません。「音楽」の力について、鶴石さんはどのように考えていますか?
鶴石:音楽は人間が根源に持っているエネルギーに通じていると思います。霊的な世界での次元を分けるのは、霊的な波動だと言われるのですが、それは音楽のエネルギーに近い概念かなと思うこともあります。
高次の存在は美しい音楽を愛する。それは霊的なエネルギーを純化したり、高めたりするからだろうと想像します。
――鶴石さまが物語を書く上で、大事にしているもの、一貫して描こうとしているものはなんですか?
鶴石:今のところ、二つの取組みがあります。一つは、最初に書いた霊性進化や生まれ変わりの仏教観、哲学観を読み物にして伝えることです。
もう一つは、人間の力は大きな自然の力の前では弱いものだが、それでも、人間は立ち向かうことで強くなれるし、正しく進化していくのだと言うことを仮想の大災害を前提にして物語に仕立てることです。処女作の『天意を汲めるか』は両方の意図を交差させています。
――本書をどのような方に読んでほしいと思いますか?
鶴石:今、悩んでいる若い生徒や先生に読んで欲しいと思います。
――このコロナ禍の中で、人々は救いを求めていると思います。だからこそこの作品を読んでエリの存在が大きく感じました。このインタビューの読者に自分の使命を見つけるために何かアドバイスを頂ければと思います。
鶴石:自分は何のためにこの世に産まれてきたのかという問いを常に問い続けることが大事です。その上で、今置かれている立場の中で、正直に誠実に精一杯生きることが、次につながります。
(了)
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