「五・七・五」のリズムで詠われる俳句は、古くから日本人の生活に根差したものとして受け継がれてきた。特に興味がある人でなくても、一句か二句は松尾芭蕉や正岡子規の俳句をそらんじることができるのではないか。
『ごー・しち・ごはん!』(幻冬舎刊)は日本人のDNAに刻み込まれた俳句の魅力と、日本人になじみ深い季節の食べ物の魅力を存分に味わえるコミック。仲良し女子高生3人組の日常と、松尾芭蕉の俳句、そして食べ盛りの3人がパクつく食べ物との組み合わせが新鮮だ。
今回は著者の佐倉海桜さんにインタビュー。この作品が生まれた背景と狙いについてお話をうかがった。その後編をお届けする。
――作中に出てくる俳句はいずれも正岡子規の句です。なぜ子規の句を選んだのかについて教えていただきたいです。
佐倉:正岡子規さんの俳句は、二万五千有余あります。あれこれ思いを巡らせ一句一句見ていくと、時間が経つのも忘れ没頭してしまいます。それほどまでに、子規さんの俳句に魅せられた理由は、今は亡き母かもしれません。母も子規さんの俳句が好きでした。
柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺 (正岡子規)
という有名な句がありますが、毎年、母は庭の柿を見ながら、この俳句を口に出していました。母の隣で採れ立ての柿を食べながら俳句を聞くと、熟れた柿の甘味が心と五感に染み込み、今もその記憶が鮮明に蘇ります。それが発端で、私も子規さんの俳句が好きになりました。
――俳句の季語の中には食べ物にまつわるものが多くありますが、普段食事をしていて季節に思いを馳せることは年々減っている気がしますし、「旬」を意識して食材を選ぶ感覚もなくなっています。佐倉さんもこうした変化を感じることはありますか?
佐倉:たとえば野菜の旬。それぞれの野菜が、本来収穫できる時期に美味しくいただける頃を言います。
春を感じるそら豆レシピ。夏バテ防止のトマトレシピ。実りの秋に感謝、さつまいもレシピ。寒い夜に作りたい白菜鍋レシピ、などなど。積極的に旬の野菜を取り入れれば、季節感溢れるレシピが食卓に並び、会話が弾みます。
旬の野菜を食べると健康にも良いです。春夏秋冬、四季折々の季節を感じるレシピをチョイスして作れば料理のレパートリーが増えるかもしれません。
――佐倉さんが俳句に興味をもったきっかけについてお聞きしたいです。
佐倉:私は、母から俳句の楽しみ方を教わりました。母は、正岡子規さんの俳句を覚えては、私に聞かせてくれました。振り返ると、日常の1コマにはいつも俳句がありました。
母と料理を作り何気に一句。平穏無事な毎日に感謝して過ごせる日々。そこには、いつも子規さんの俳句がありました。母から俳句の親しみ方を教わり、人生に楽しみが増えたと思います。
――もうすぐ春がやってきます(取材日は3月上旬)。最後にこの時期にぴったりの句を一句ご紹介いただきたいです。
佐倉: 夜桜や 上野を通る 戻り道 (正岡子規)
これは100年以上も前に詠まれた春の句です。上野と言えば、江戸時代から続く桜の名所、上野恩賜公園が有名ですが、当時の子規さんも上野の桜に魅了され、数百もの見事な桜並木の桜を見ながら、花見客を余所目に夜道を歩いたのではないでしょうか。
咲き誇る桜に見とれて歩くうち、いつの間にか桜並木が途切れ、もと来た道を引き返すことになった上野の戻り道。上野の桜は「いま」も「むかし」も変わりなく美しく、子規さんの一句も「いま」も心に響きます。この本を機に、俳句に親しむきっかけになれば幸いです。
(新刊JP編集部)
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