読むべき本、見逃していない?

「節税対策」だけではダメ 相続専門税理士が指摘する相続の落とし穴

  • 書名 『ホントは怖い 相続の話』
  • 監修・編集・著者名木下勇人
  • 出版社名ぱる出版

人の子である限り誰でも避けられないのが親の死であり、その先にある相続だ。

遺産相続というと、多くの人の頭に浮かぶのは「相続税」であり、それだけに「うちは資産らしい資産がないから、相続対策はしなくていい」と考えがちだが、これは間違い。まして、「うちは家族の仲がいいから相続で争うことはない」という考えも禁物だ。

誰もがいつかは直面する相続にどんな備えをして、どう乗り切ればいいのか。また「もめる相続」と「もめない相続」の違いはどこにあるのか?

今回は『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版刊)の著者で相続専門税理士の木下勇人さんにお話をうかがった。

■相続には「節税」より大事なことがある

――『ホントは怖い 相続の話』についてお話をうかがえればと思います。私の両親はまだ元気なのですが、相続の話は他人事とは思えません。

木下:相続のことって、自分がいざ相続人にならないとわからないんですよね。ご兄弟はいらっしゃいますか?

――弟が二人います。私と上の弟は結婚していて、ともに子どもはいません。下の弟だけ独身ですね。

木下:それであれば、今はまだ相続でもめるような状況ではないかもしれませんが、いずれ全員結婚して子どもができて、これから学費でお金がかかるということになったら、やっぱり相談に行くのは親のところなんですよ。

でも、自分の知らないところで弟が子どもの学費を親にもらっていたら、やはり気持ち的に穏やかじゃないですよね。

――それはそうですね。「なぜそっちだけ?」となると思います。

木下:相続でもめるのって本当にそれだけのことなんですよ。要は兄弟の間で「不公平なんじゃないか」というわだかまりができてしまう。

両親からしたら孫はかわいいですから、三人兄弟のうちどこかの家で初孫が生まれたらお小遣いをあげるでしょう。そうすると他の二人には不公平なんじゃないかという気持ちが出てきて、それは自分だけでなく妻にも伝染してしまう。最悪の場合は家族対家族の対立になってしまったりするんです。

――親族同士のお金のトラブルは避けたいですよね。

木下:家族間でもめるともうぐちゃぐちゃです。両親のどちらかが亡くなった場合は、まだもう片方が生きているのでそんなにおかしなことにはならないのですが、そちらも亡くなった時の「二次相続」がもめやすい。

たとえば、先にお父さんが亡くなったとしたら、兄弟の誰かがお母さんにうまく取り入っていつのまにか自分に有利な遺言を書かせていたり......。

――そんな話が現場であるんですか?

木下:そんなのばっかりですよ。相続になると財産目録を作って故人の財産を明らかにしたうえで相続税の計算をするのですが、財産目録を見ながらみんな「自分が何をもらえるか」と考えますからね。それで、たとえば「自分は長男だし弟たちにちょっと譲ろうか」などと考えようものなら、奥さんが怒る。

――タイトルにある「ホントは怖い」は、「相続について知っておかないと怖い」というだけでなくて、「節税対策だけ考えていると親族内でもめごとが起きやすくなりますよ」というメッセージでもあります。これはどういうことなのでしょうか?

木下:ひと言でいえば「シワが寄りやすい」んです。極端な話ですが、自分の弟が家を買うからということで、親から生前贈与で3,000万円もらっていましたとしましょう。住宅を建てる目的でお金を贈与する際には非課税枠があって、住宅の種類や契約日にもよりますが3,000万円まるまる非課税で贈与できることがありますから、確かに節税にはなります。

だけど、兄である自分はすでにマンションを買っていてローンを払っている場合は、同じように3,000万円生前贈与しようとなっても非課税ではありません。だからといって自分には何もなしだったら到底納得できる話ではないでしょう。

――節税はできたけど、不公平じゃないか、と。

木下:そうですね。兄からすれば「非課税じゃなくてもいいから、俺にも3,000万円くれよ」です。もらえないよりはもらったほうがいいからと。実際そうすれば公平感は出るのでしょうが、節税だけが頭にあるとなかなかそうはしないんです。

もう一つ例を挙げましょう。亡くなった人の自宅を同居していた人がそのまま相続すると、自宅敷地の相続税評価は8割引になるんですね。たとえば世田谷区に1億円(建物は古く価値なし)の自宅(敷地330㎡)を持っていた親が亡くなった場合を考えてみましょう。両親の片方はすでに亡くなっていて、二次相続だとします。法定相続人は息子2人で、長男が親と同居していたと想定します。

8割引ですから、家を長男が相続すると、相続税評価は2,000万円なんです。それに加えて預貯金が2,000万円あったとしたら合計で相続税評価は4,000万円。節税効果は抜群です。

ところが、これがもめやすい。「俺が不動産を相続するから、預貯金の方は持っていってよ」と言われても弟の方は納得しません。弟からしたら「家と預貯金で合計1億2,000万なんだから、その半分の6,000万円くれよ」となる。

――たしかにそうですね。

木下:もっと言えば、家の分の1億円というのは、土地の立地ごとの値段が定められた「路線価」という国税庁が出している資料をもとに算出したもので、時価とは違います。今は不動産が値上がりしていますから、この世田谷の家の時価は2億円だったりする。そうなると弟は「2億2,000万円の半分よこせ」と言えてしまうわけです。

――このケースでもめないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

木下:「家は同居している長男に。預貯金は次男に」と遺言を残しておくしかないでしょうね。ただ、あまりに公平性がない場合のために民法で「遺留分」というものが定められていて、この場合は二次相続で法定相続人が兄と弟の2人ですから、弟は遺産の4分の1まではもらう権利があるんです。

だから、先ほどのケースで考えると、弟からしたら時価2億2,000万円の4分の1ということで5,500万円まではもらう権利がある。「残りの3,500万円をくれよ」ということはできます。ただ、遺言がないと「1億1,000万円くれよ」となって出口が見えない争いになってしまいますから、遺言はあったほうがいい。

いくつか例を挙げて説明しましたが、相続は「節税対策」と「もめない分け方」が両立していないとだめなんです。そのために遺言は有効な手段ではあります。とはいえ日本人で公正証書遺言を書いている人は10%もいないのが現状ですが(自筆証書遺言を含めるともう少し多くなるかと思います)。

(新刊JP編集部)

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