「賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるが、私たちが歴史を学ぶ意味とは一体何だろうか?
一つは今を生きる私たちが過去の歴史から、自国が生き残る可能性を探り、進むべき未来の針路を定めること。もう一つは、歴史を知ることで、自分や自分の国、社会に対して、卑屈でも尊大でもない「正しい自信」を持つことではないだろうか。
『日本人のための現代史講義』(谷口智彦著、草思社刊)はこうした目的のために、安倍総理のスピーチライターを務める筆者が「現代日本人が知っておくべき戦後史」をつづる。
日米関係が単なる同盟関係というにはあまりにも入り組んでしまっているのはなぜなのか。成長を続ける中国は今後どんな道をたどるのか。そして、日本は世界の中でどう生き抜いていけばいいのか。
私たちが疑問に思うこのようなトピックに対して、本書は過去にさかのぼり、現在へとつづく因果を解き明かし、未来への道筋を示していく。
たとえば、今の日本人は、アメリカは日本の同盟国でありもっとも親しい友好国であるということを常識として知っている。しかし、アメリカはかつて日本と戦火を交えた国でもある。そのアメリカが日本と同盟関係を結んだのはなぜなのか?もっと言えば、アメリカが同盟相手として日本を必要としたのはなぜなのか?
こうしたトピックは、おそらく普通に歴史の授業を受けていただけではわからない。史実だけでなく、当時の世相を知る必要があるからだ。
第二次世界大戦後が終わってからわずか数年後、朝鮮戦争が始まった頃の日本は「共産化」の一歩手前にあったというのは今からするとなかなか想像しにくいことかもしれない。しかし、1950年、ソ連を背後に置いた北朝鮮軍(共産主義勢力)が南進することで朝鮮戦争が始まり、次々に朝鮮半島を制圧。共産化を逃れているのはかろうじて釜山とその一円だけという状態になると、日本国内の共産主義者たちが呼応した。
釜山が落ちたら、北朝鮮軍は必ず九州にやってくる。今こそ九州に革命政府を作り、日本から独立させるべきだ。
今からすると驚くべきことだが、こんな理屈が実際にあったそうである。少し時代がずれるが、1955年の日本のベストセラーの一角を占めたのは『経済学教科書』という、マルクス主義の公式を解くソ連の国定教科書である。それだけ当時の日本には共産主義思想が幅をきかせていて、傾倒する人間が多くいたのだ。実際、世論を席捲していたのは常に左翼だった。
この状況をアメリカはどう見ていたのだろうか。
すでに中国大陸は中国共産党が統べていた。北にはソ連もいる。このうえで日本まで共産化したら、西太平洋からインド洋にかけての一円が共産主義圏になってしまう。これはアメリカとしては絶対に避けなければならなかった。
こうしたいきさつから、戦後のアメリカの対日占領政策は「復仇」から「復興」にシフトしていった。日本の経済復興を支援し、経済力をつけさせ、自分たちの側においておくことがアメリカの国益であるというコンセサスができ、この方針に沿って懲罰的要素の少ない対日講和を欧州諸国やオーストラリアに受け入れさせ、いち早く日本をGATT(関税貿易に関する一般協定)に加入させるように外交活動を展開していった。朝鮮戦争を巡るこの一連の流れが、今日の日米同盟のそもそもの始まりになっている。
こうした経緯を知らないと、現在そして未来の日米関係を考えることができない。本書ではこの他にも学校では教わらないが近現代史の中で極めて重要な意味を持つトピックについて解説していく。
平成から令和へと時代が変わり、戦後の歴史が少しずつ人の記憶の中で薄れていくが、今の社会の礎になっているのはまぎれもなくこの時代。本書を一読してみると、自分の生きている社会がこれまでとはちょっと違って見えてくるかもしれない。
(新刊JP編集部)
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