孫正義氏から認められたプレゼンの技術を通して、分かりやすく物事を伝える考え方をつづった『1分で話せ』(SBクリエイティブ刊)が、2018年のベストセラーとなったYahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏。
そんな伊藤氏の新刊となる『0秒で動け』(SBクリエイティブ刊)が8月22日に刊行された。今回のテーマは、タイトルの通り「動く」。すぐに動くことが良いと分かっていてもなかなか動けないと悩む人が多い中で、伊藤氏はいかにして「動く」技術を身に付けていったのか。
伊藤氏へのインタビュー後編は、コミュニケーションの重要性と人を動かす秘訣を聞いた。
(聞き手・執筆/金井元貴)
伊藤:人事制度としては、マネージャーはチームメンバーと週1回30分、「1 on 1」のミーティングをすることになっています。やらなかったら罰則というものではないのですが、マネジメントの基本であると考えています。
でも、よく考えてみればすごいことですよね。7000人の全社員が毎週30分1on1に時間を費やしているということは、毎週、単純計算でのべ3500時間にのぼるわけです。
伊藤:まずは「最近どう?」というような雑談から。そして気づいたことや悩んでいることを話したり、普段あんまり言えないことを共有したり。
「1 on 1」をやる理由の1つは、心理的安全性を作り出すことです。安心して自分の悩みや考えを言える場所として機能させる。もう1つは、いろいろ話してもらって、自身の成長の場にする。要はコーチングですね。マネージャーは質問を通じて相手に気づきを得るように促します。
僕がヤフーに転職してきて、「1 on 1」を定期的にやるようになってから、それまで、メンバーと全然話をしてこなかったことに気づいたんですよ。メンバーそれぞれが楽しく仕事できて、良いパフォーマンスをあげられるようになるためには、定期的に向き合う時間が必要です。仕事の進捗報告だけではなくてね。
伊藤:そうなんですよね。ですからおそらく6人くらいが限度だと思います。部下が10人くらいなら2週間に1回にするとかになるんでしょうけど、じゃあ、頻度を1ヶ月に1回にすると間が開きすぎな印象です。一ヶ月たつと、大抵、前に話したことを覚えていないから。
前職では500人ほど部下がいましたけど、その時は「MBWA」(Management By Walking Around)を実践していました。「歩き回るマネジメント」という意味で、本当にぶらぶらと歩きまわって声をかける。「また伊藤さんが邪魔しに来た!」みたいな感じで怒られることもあるのですが、お菓子をもらったり、「あ、ちょっといいですか?相談したいことがあって」と声をかけられたりすることもあります。
伊藤:周囲から自分のことを理解されていないまま巻き込もうとしても、周囲は誰も動きません。 それはなぜかというと、発言や行動の背景が分かっていないからです。「なぜこの人はこんなことを言うんだろう」という背景=「Why?」(なんで)が分からない。でも、言葉や行動の裏には、その人の過去の経験があるはずです。こういう経験をしたから、今こう動いている。これが確かになっていないと、「あの人、また勝手なこと言ってる」となってしまいます。
伊藤:人を動かすときには、「未来をこうしたい」だけでは足りないんですよ。まずは過去の経験があって、現在の行動がある。じゃあ、未来はどうなるの?と。そこでリーダーは進みたい未来について語るんです。
思いを伝えるには「Why?」(なんで?)から「So What?」(それで?)というストーリーを作り出すことが大切だとこの本に書きましたが、それは「過去」→「現在」→「未来」の順番でもあるんです。このインタビューにおいても、『0秒で動け』という本が書かれた「Why?」(なんで?)から始まり、「So What?」(それで?)までを説明しています。
結局、「0秒で動く」ということは、過去の経験に裏打ちされた自分の軸が明確になってできることです。軸がある人は「自分はこういう経験をしてきたから未来をこうしたい」という結論がすぐに出てくるけれど、動けない人や決められない人は、その軸がないんです。だから、その都度辻褄を考えてしまう。
伊藤:自分自身を理解していないとも言えますね。その都度考えて立ち止まってしまう。また、周囲を動かすこともできないわけですよね。
伊藤:大好きな漫画なんですけど、なぜ金ちゃんを目標にしたかはもう覚えていません(笑)。ただ、一つ逸話があって、前職で経営側に入ったときに、経営会議をウェブで社内に公開したことがあるんです。これは『サラリーマン金太郎』の金ちゃんが実際にやっていたことで、「自分が経営側になったらこれやろう」と思っていたんですよね。
普通の社員にとって、経営会議って見る機会がまずないじゃないですか。普段経営層がどんな話をしているのかオープンにしたほうが会社のためになると思って、試しに1回やってみたんです。
伊藤:もちろん会議のメンバーからは渋られましたよ(笑)。でも、社員には驚くほどウケたんです。多くの社員がウェブで経営会議を見てくれてて、支社では、支社長が「この会議はハードですね。経営会議に行くのが嫌だと言った理由が分かりました」と声をかけられたりしたそうです。
伊藤:これはピンポイントのエピソードですけど、金ちゃんの困難があっても立ち向かう姿勢が自分にはないので、「こうなりたいな」と思いながら感情移入して読んでいました。
三浦知良さんをライバルだと言ったエピソード含めて、僕はいろいろな人の真似をしてきました。その中で、この人はどうしてこう考えるのだろうとか、この場合あの人ならどう動くかなということを考え抜くようになってくるんですよね。
自分はたいした実力がないとずっと思っていますし、それはコンプレックスの一つです。だから、他の人から学ぶんです。自分はたかが知れているからこそ、他の人の力を借りようとしてきたんですね。
伊藤:2つあって、1つは当たり前だけど、いろんな人とコミュニケーションが取れる人ですね。ダイバーシティをもって分け隔てなくコミュニケーションが取れる。相手の話をちゃんと聞ける。そういう人は求められるでしょう。
これは言い換えると自分が社会の一員として貢献しようという感覚を持っているかどうかだと思うんです。それがないと、「俺か、俺以外か」ということになっちゃう(笑)。
でももう一つ大事なことがあって、今度は「俺か、俺以外か」ということになるんだけど、「自分は何なのか」ということをちゃんと分かっていることも求められる。社会の一員として貢献していく感覚を持ちつつ、でも一人一人は違う人間であるわけで、「自分はこう思うんだ」というものがリーダーシップの源泉になっていきます。ただ、もちろん「俺はこう思う」だけでは、人はついてきません。そこには自分の過去の経験という裏打ちするものが必要になる。
伊藤:それは頭で考えても分からないことですからね。結局、有象無象のファクトを積み重ねていく中で「こうなんじゃないか」というアハ!(気づき)体験を繰り返していくことが必要です。積み上げるファクトは多ければ多いほどいいわけですから。そうした前提があれば、どんなに小さな面白いことと対峙しても、すぐに動けるようになります。
伊藤:そうですね。「0秒」というのは「今、この瞬間が大事」ということに加え、そこまでに勝負が決まっているということもあります。
伊藤:「0秒」だと、とにかく何も考えずに勇気を持って踏み出せ!という印象を持つかもしれないけれど、そうではない、しっかり準備することが大事、ということは伝えておきたいですね。
(了)
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長。
株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA) 修了。1990年に日本興業銀行入行、企業金融、事業再生支援などに従事。2003年プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当した後、2011 年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。
かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校) に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1 位の成績を修めた経験を持つ。
2015年4月にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。
(『0秒で動け』より)
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