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もしマニュアル外の対応を迫られたら...? 接客のプロが指摘する「OK接客」「NG接客」

  • 書名 これだけできれば大丈夫! すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ
  • 監修・編集・著者名七條 千恵美
  • 出版社名ダイヤモンド社
  • ISBN9784478106808

人気が出る店のパラメータの一つとして、スタッフの「接客」の気持ち良さ、心地よさがあげられるだろう。一方で、接客が原因となり、クレーム騒ぎや炎上騒ぎになってしまうこともある。

今回は、「やっているつもり」「できているつもり」になりがちな接客の基本50のポイントを教える『これだけできれば大丈夫! すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』(ダイヤモンド社刊)を著した七條千恵美さんに、OK接客・NG接客や現場のリーダーや店長・オーナーの心得についてお話を聞いた。

七條さんは元JALの客室乗務員で、皇室チャーターフライトのメンバーに抜擢されたこともある"接客のプロ"。2010年から2年間、客室教育訓練室の教官として1000人以上の訓練生を指導した実績を持ち、現在は接客マナーをメインとした研修講師として活躍中だ。
さまざまな現場を見てきた七條さんならではの「接客」論をお送りする。

(新刊JP編集部)

■TPOにそぐわない「残念な接客」を生まないためには

――今回上梓された『接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』は"接客の基本"がテーマとなります。約2年前に出版された前著の『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社刊)との違いから教えて下さい。

七條:前著では「一流の接客とは何か」ということを私なりの「一流、二流、三流」に分けてお伝えしたのですが、(お店の)オーナーさんや現場のリーダーの方々のお話をうかがう中で、やはり「接客の基本的な部分をどう教えたらいいのかわからない」「難しいことをやる前に最低限のことができるようになってほしい」という声を聞くことがありました。

それは、私自身もお客の立場として日々接客を受ける中で感じることでした。例えるならば、算数のテストです。最初に出題される基礎的な計算問題は、意外と大きい点数が配分されていますよね。そこでしっかりと点数を取らずに難しい問題ばかりに挑み、結果的に思う点数に至らない人が多いような気がしていました。
たとえ難しい問題が解けなくても、基礎点をしっかりと積み上げることができれば、平均点は取れるのではないかと。それは接客も同じで、基礎を疎かにしてしまい点数を積み上げられないから「残念な接客」になってしまうように思うのです。

――接客に限らず、仕事そのものに当てはまる例ですね。

七條:そうなんです。それに、向上心のある人は自分なりにどんどん学びますから、『接客の一流、二流、三流』も接客に対して興味や関心が高い方には読んでもらえたのではないかと思っています。ところが、接客初心者や改善が必要な人など、もっとも読んでほしい人にはなかなか届かないという歯がゆい思いがありました。

――先ほど、オーナーさんや現場のリーダーの方々からの悩みの声を受け取ったとお話されていましたが、スタッフの指導が難しくなっているのでしょうか?

七條:自分も仕事をしながらのスタッフの育成は難しいという話はよく聞きます。また、どのような言い方で指導をすれば効果的なのか、モチベーションを下げないようにするには、という悩みもよく聞きますね。「ならば!」ということで、接客の基本にフォーカスした本を書いて、朝礼やミーティングなどで使ってもらいたいと思ったのです。

――「残念な接客」の例を一つあげてもらえますか?

七條:たとえば、「お客さまを名前でお呼びする」。これは、個別対応という面では良しされていますけれど、それさえしていればすべてがOKというわけではありません。以前こんなことがありました。不特定多数の人がいる病院の待合室で、女性の患者さんに向かってスタッフが「○○さま~!尿検査終わりましたか?」と...。大きな声で名前を呼ばれた患者さんは恥ずかしいだろうなと思いました。

「気にしないよ」という方ももちろんいらっしゃると思いますけれど、全員がそうではないはずです。名前を個別で呼ぶことは、患者さんとしてひとまとまりではなく、あなたを個人として「大切にしていますよ」というメッセージを伝えることです。「大切にしている想い」が抜け落ちて「名前でお呼びする=いい接客」という知識だけが上滑りした残念な事例ですね。

――例えば「お客さまを名前で呼びましょう」とルールを決め、マニュアル化をすると、そのルールが先行し過ぎて臨機応変に対応できなくなってしまうことがあります。それが結果的にNG接客につながることもあるのではないですか?

七條:一人でやっていらっしゃるお店はマニュアルもいらないでしょうし、オーナーの目が届く範囲の人数であれば最低限のルールや方向性だけ決めれば良いと思いますが、人数が多いお店ですと、自分たちの接客について立ち返る場所として、マニュアルはあったほうが良いというのが私の考えです。

ただ、マニュアルは最低限のサービス品質の保持のためにあるものです。マニュアルに捉われ過ぎるのもよくないですよね。何かあった時に、自分の頭で考えることを放棄してしまうことにもつながります。

たとえば、接客において笑顔は大切です。接客に慣れていない人ほど、まずは笑顔で!と本にも書きました。ただ、だからといってお詫びをする場面でも笑顔だとおかしいですよね。実際にいるのですよ。なんでもかんでも笑顔ならいいと思っている人が(笑)。「いつでも笑顔で」ということがマニュアルに載っていても、その場の状況やお客さまの感情を考えて判断することが必要ですよね。

■マニュアル外の対応を迫られた時の3つのポイントとは?

――本書を読むと、やはり接客はスキル的な要素もありますが、本質は人間同士のコミュニケーションだと感じました。

七條:その通りだと思います。「接客」は仕事ですから常にアンテナを張ることは大事ですが、自然体で心地のよいコミュニケーションをとることが理想ですよね。自分ありきではなく、お客さまありきで、相手の反応を見て対応することが何よりも大事だと思います。

――また、マニュアル以外の対応を迫られた際の判断基準として3つのポイントをあげられていましたが、これは納得です。

七條:私も読み返しながら、自分で「確かにこれはそうだな」と思いました(笑)。

マニュアル外の対応を迫られたときの判断基準(本書p.157より)
(1)お客さまが、この対応はスタンダードではないと理解してくださっていること
(2)他のお客さまが不公平感をもたないこと
(3)その対応によって他のお客さまへの接客品質が低下しないこと

――マニュアルにない対応を迫られた際の、リーダーへの報連相(報告・連絡・相談)についてはいかがですか?

七條:接客の仕事に慣れないうちは、困ったことがあれば、まずは相談してほしいですね。最初から自信をもって判断できる人はいないわけですから。

ただ、ある程度慣れてきて自分の中に経験というデータがある場合は、「イレギュラーなことがあったのですが、このように対応しても良いですか?」と提案を交えた相談をするほうがいいと思います。「どうすればいいでしょうか?」だけでは成長がありませんからね。また、やむを得ず事後報告になる場合も、どのような対応を取ったのか、きちんと報告することが必要です。

マニュアル外の対応をして困るのは、後日「この前はやってもらえたのに何で今回はダメなの?」とお客さまから言われることではないかと思います。それを避けるために、マニュアル以外の対応はしないと決めてしまったほうが楽かもしれませんが、臨機応変であることこそ「人にしかできない価値」だと思います。

自分たちに非がある場合の特別な対応や、お客さまのご事情からなんとかしてご要望を叶えて差し上げたいときには、本書の判断基準に照らし合わせて、今回は「特別な対応」であることに納得していただいた上で対応をする。そうすれば「前はやってもらえたのに」という混乱を回避できます。

もちろん、その際にも上司や先輩への報告・連絡・相談をしっかりとすべきです。特にチームで働いている場合には、情報共有しておけば次にそのお客さまが来店した際に、「あのお客さまは以前イレギュラー対応をしたお客さまだな」という連携も取れます。

――他にイレギュラーの対応で気をつけるべきことはありますか?

七條:他のお客さまに不公平感を抱かせないことも大事です。また、そのお客さま対応にかける時間や提供するモノによって、他のお客さまへの接客品質が下がらないようにすることも重要ですね。

――クレームを激しくつける人への対応によって、他の人への接客がなおざりになるというケースもありますね。

七條:クレームの内容によって対応方法は変わりますが、それでもやはり他のお客さまが十分な接客を受けられないことによって不公平感を持たれることは極力避けたいです。

想定されているケースとは少し違うかもしれませんが、たとえば飛行機に搭乗するとき、赤ちゃん連れのお母さまは大変ですから、CAとしては目もかけますし手助けもします。周囲のお客さまも「赤ちゃんかわいいね」と優しい目を向けてくださる方が多いのですが、一方で「何で子連ればかり特別待遇するんだ」という空気を出されるお客さまがいらっしゃることもあります。

そのようなお客さまに気づいたならば、不公平感を少しでも和らげていただくために目が合えばニッコリと微笑む、「機内は寒くないでしょうか?毛布をお持ちしましょうか?」「何かお飲み物はいかがですか?」と声をかけます。そうすることで「貴方さまのことも大切なお客さまだと想っていますよ」というメッセージを感じていただくことができます。目の前の困っているお客さまだけを見るのではなく、広い視野を持って、その周りのお客さまにも目を配ることが大切だと思います。

(後編に続く)

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