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人生100年時代を健康に過ごすために知っておきたい「口の中」の大切さ

  • 書名 人は口から死んでいく──人生100年時代を健康に生きるコツ!
  • 監修・編集・著者名安藤 正之
  • 出版社名自由国民社

現代人の口の中は、大きな問題を抱えている。 ヒトとして理想的な形のあごをもっている人はわずか7.1%。およそ9割以上の人はイヌ型、チンパンジー型と呼ぶべきあごであり、歯並びにも問題があるという

こうしたあごや歯の変化は、実は、全身の健康にも影響を与える。そう警鐘を鳴らすのは、咬み合わせの名医と知られ、 『人は口から死んでいく──人生100年時代を健康に生きるコツ!』(自由国民社刊)の著者でもある安藤正之氏だ。

安藤氏によれば、あごや歯並びの変化によって「舌」の収まるスペースが狭まり、現代人は常に「舌ストレス」を抱えている状態だという。しかも、多くの歯科医は、舌やあごについては専門領域ではないため、この問題を改善していくことが難しい現状にあると語る。

そんな安藤氏に口の中の健康を保つためにできること、これからの歯科医療についてのお話をうかがった。

(取材・文:大村佑介)

■現代人のあごを理想的な「ヒト型」に戻す方法

――イヌ型、チンパンジー型のあごを、自分の努力でヒト型に改善していくことはできるんでしょうか?

安藤正之氏(以下、安藤):残念ながら、自分の努力では無理です。 そもそも、あごのスケールについては遺伝的要因が優位なんです。 詳細なデータはないのですが、矯正の先生に「体験的でいいから、あごの形を決めるのは先天性と後天性、それぞれ何割くらいが影響していると思いますか?」と聞くと、七割が先天性、三割が後天性だと回答されるケースが多いです。

つまり、ヒト型のあごをもった親からは、ヒト型のあごを持った子どもが生まれる。もしくは、チンパンジー型の親からはチンパンジー型の子供が生まれる。 「遺伝が7割」だということです。

「食育が大事」。よく言いますね。確かに大切なのですが、私は現代人のあごを昔のような、ヒューマンスケールに戻すには、食育だけでは足らないと思っています。 なぜかというと、一回の食事で噛む回数というのは、時代を経てどんどん落ちているからです。

今から1700年以上前の卑弥呼の時代は、4000回ほど噛んでいて、食事時間は1時間程度もあります。 それが、江戸時代から昭和初期までは、およそ1440回になりました。昔の日本食を食べている限り、1400回ぐらいは担保されていたのです。

ところが、昭和30年代から、インスタント食品が増え、食の欧米化が始まり、親が総菜をつくらなくなりました。この三点セットが発端となり、現代人が一回の食事で噛む回数は、500~600回に落ちています。 これを我々が、「あごの大きさを元に戻すために、噛む回数を2000回に戻す」というのは無理だと思うのです。というより、現代人の弱いあごの関節なら、顎関節症になりかねません。

現代人は全身が弱くなっているのです。歩かない、噛まない。 また、世の中は除菌・除菌で、菌にも弱くなっている。それを「あごだけ元に戻す」というのは不可能です。 専門家が犯しやすい間違いというのがあって、自分の研究している領域のことだけを取り出して、「昔に戻しましょう」とか「もっと鍛えましょう」とか言うことです。しかしそれは、とても難しい話なんです。

後天的にあごを大きくするとしたら、歯科医が介入するしかありません。 イヌ型をヒト型にするベストな方法は、8歳から12歳までにエキスパンションという顎骨を広げる装置を入れることです。これは小児矯正の領域です。

成人してからですと、20代の終わりから30代の初めくらいまでは、歯の矯正で、小児ほどではないですが、ある程度の改善が見込めます。下部の、顎骨本体を大きくすることは無理ですが、あごの上部にある歯槽骨だけは広げることができるからです。

困ったことに、イヌ型とチンパンジー型、どちらにもあるのが「歯の倒れこみ」です。あごの形を変えるのは無理だけど、歯の倒れこみを直すだけでも、不定愁訴の症状はだいぶ軽減される傾向にあります。

ただ、40歳を過ぎたら、歯を丸める方法を選択する方がいいです。 現代人は40歳過ぎには、ほとんどの人が歯周病にり患していますし、矯正治療自体が、体に大きな負担をかけるので、歯をほんの少し削って、舌の刺激を軽減させたほうがいいのです。

あごのスケールは遺伝的要因が優位なんですが、たった一代で受け継がれていく、という特徴があります。

イヌ型やチンパンジー型が遺伝してしまっても、小さい頃にしっかりと矯正をしてあげれば、改善され、ヒューマンになることが期待できます。そうすると、その子供はヒューマンスケールになる可能性が高くなる。一代で進化(退化?)したものは、一代で戻せるのです。

だから、私はこの理論を広めることができたならば、30年で舌ストレスのない世界を作ることが、可能だと信じています。

■歯は命の入り口、すべての健康のもと

――舌ストレスを軽減するために自分でできることはありますか?

安藤:歯の形を変えないといけないので、基本的には無理です。できるとしたら薄いマウスピースをすることですね。 歯の尖ったところをナイフだと喩えると、その上に布団をかけるわけです。ただ、それを24時間つけるのは現実的ではないです。やりすぎると、歯の咬み合わせも崩れる危険性もあるので、注意が必要です。

だから、ガッカリさせて申し訳ないのですが、読者の方が自分一人でできることはほとんどありません。 だからこそ、この「舌ストレス」の問題意識を高め、世の中に浸透させていって、地域ごとにいらっしゃる歯科医師の先生が、ケアできるような状態をつくらないといけないんです。患者さん自身ではなかなかできないことですから。

――TVやメディアなどで、さまざまな領域の専門医の人は、自分の領域の話だけをするというお話がありましたが、そうした情報を取り上げていくメディアの風潮というものに対して懸念することはありますか?

安藤:風潮として懸念することは、センセーショナルに表現するところですかね。 この言い方は適切かどうかわかりませんが、歯科に関しては、これまで一般の人があまりに無頓着だったという部分はあると思います。「痛くならないと歯医者へ行かない」と言う人は、今でも多いのではないでしょうか。 なので、むしろちょっとだけ煽ってもらって怖がってもらうくらいが、ちょうどいいのかもしれません。

――歯や舌の怖さという点で、安藤先生の危機感の認識と、一般の方々の認識はどのくらいズレているという感覚ですか?

安藤:前述したように、舌に関することは歯科医師やほかの領域の先生といったプロでも、あまり認識していないことですから。 これは、今後を大いに期待して、楽しみにしております。

昔、うちの診療所でも「歯は命の入り口、すべての健康のもと」という言葉を標語として貼っていました。まずは、口の中は小さな地球だという概念を持ってもらい、とにかくケアをちゃんとしてもらう。一日一回、寝る前には歯を磨く。

あと歯科衛生士さんの、活用の仕方ですね。歯周病の予防のため、一か月に一回か三ヶ月に一回行く。 今は、予防のための診療は保険には入れないという方向に移りつつあるのですが、美容院に行くと思って「自費でもいいから、払ってでもいく!」ということが望ましいです。 月一回行くと、歯周病菌もずっと低いままいけます。三か月に一度だと歯周病菌が増えたところを一気に叩くという感じです。なので、せめてどちらかをやっていただきたいですね。

――最後に読者の方々にメッセージをお願いします。

安藤:歯科というのは、健康に関して二番目に重要な領域なのです。 健康とは「血流」に関してですが、「歩くことは、第二の心臓」という言葉は、よく知られていますね。 歩くと、ふくらはぎの血流が促されて、ポンピング作用で血を心臓に戻します。では、上にいった血液が戻るのは、何か? これが、噛んで、喋って、笑って、歌ってという口の部分。 だから、血流の観点から言うと口やあご、咬み合わせというのは、健康にとって歩くことの次に重要な、「第三の心臓」なのです。

もうひとつ。 実は、認知症に関しても、歯科が二番目に大事、といってもいいのです。 カナダの脳神経外科医のワイルダー・ペンフィールド博士がつくった「脳地図」をもとに描かれた、脳と体の関係を三次元的に表現したホムンクルス図というものがあります。

これは、手と、口と舌が非常に大きく描かれた絵なのですが、一番大きいのが手です。 よく「職人さんはボケない」と言いますが、これは本当なんですね。 なので、皆さんも定年後の趣味は、陶芸でもギターでもいいので、手を使うことをやってください。 そうすると、脳が活性化してボケにくくなります。ボケ防止には手を使うことが一番いいのです。

でも二番目は何か? 二番目に大きいのは、口・舌・唇。そう、ボケないために二番目に重要なのは、「口」の領域だと私は考えています。噛んで、喋って、笑って、歌うこと、が大切だと思います。

まとめると、歯科という領域は、血流による健康から考えても二番目、ボケ防止から考えても二番目。地味な分野なのですけれど、それくらい大事なのです。そう思って、自分の歯で一生残して人生100年時代を生きてほしいですね。

インタビュー前編 ■「 歯の治療が頭痛や肩コリの原因となる? 咬み合わせの名医がたどりついた「舌」の重要性」 を読む

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