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歯の治療が頭痛や肩コリの原因となる? 咬み合わせの名医がたどりついた「舌」の重要性

  • 書名 人は口から死んでいく──人生100年時代を健康に生きるコツ!
  • 監修・編集・著者名安藤 正之
  • 出版社名自由国民社

病気は専門医に診てもらうのが一番。そう思うのが普通だが、医学の専門性には時として落とし穴がある。専門医は自分の領域以外のことについては、それほど詳しくないという落とし穴だ。

咬み合わせの名医として知られ、 『人は口から死んでいく──人生100年時代を健康に生きるコツ!』(自由国民社刊)を上梓した歯科医の安藤正之氏は、「医師は歯科の領域はあまり詳しくなく、歯と口の専門である歯科医師も、長年見過ごしている領域がある。それが"舌"なのです。」と説く。

安藤氏は、歯科医がこれまで見過ごしてきた「舌」についての研究を独自に行い、歯科治療によって引き起こされる頭痛や肩コリなどの症状を改善する治療を続けてきた。そんな安藤氏に歯科にとって重要なポイントであるという「舌」や「あご」についてのお話をうかがった。

(取材・文:大村佑介)

■歯科150年の歴史で見過ごされてきた「舌」と「あご」

――安藤先生が「舌」に着目するようになったのには、どのような経緯があったんでしょうか?

安藤正之氏(以下、安藤):私が「舌」に着目するようになったのも、咬み合わせ治療を始めるキッカケとなったのも、すべて患者さんの声によるものです。

私の歯科医としての専門は、インプラント・審美歯科・入れ歯、だったのですが、あるアメリカの大学歯学部の日本校で、「咬み合わせ治療」の一年コースを受けて、そこで得た知識をもとに、咬み合わせ治療をおこなうようになりました。

私が学んだアメリカの大学歯科部の学派の要点を簡単にいうと、「長年使ってすり減った歯を元に戻しましょう」というもの。つまり、「すり減った歯は良くない」という考えでした。
ところが、学んだ通りにやったら、肩コリや腰痛を訴える患者さんが出るようになったのです。

患者さんの声を聞いて、私は「これはおかしい」と思いました。
そこで師匠である、アメリカやスウェーデン、また日本の有名な先生たちにアドバイスを求めたのですが、そうしたら「わからない」もしくは、「自分たちの仕事ではない」と言われたのです。

ある日本人の師匠には、肩をつかまれて廊下に連れ出されて「それは歯科の範囲ではない。
我々は歯科の範囲で、学問として裏付けが取れている分野で100点を目指せばいい」と言われました。

確かに、それもひとつの見識です。
できもしないのに手を出して、ひどくなってしまうのは患者さんにとって一番困るわけですから。
しかし、習った通りの治療をした結果、肩や首に症状が出た患者さんはどうするんだと。
そこで悩みに悩んだ末、私は普通の歯科医でない道を、歩き始めたのです。

まず、なぜ歯の治療で肩こりや腰痛――いわゆる不定愁訴が起こるのかの研究を、独自に続けました。整体や気功、O-リングテストなどを習い、同時に大学に通って、解剖学と微生物と生理学を勉強し直しました。

解剖学の教授から学生と一緒に、解剖実習の勉強することを許され、専攻生という身分で医局には入り、毎週、解剖実習に通いました。

解剖の実習というのはご遺体を解剖させてもらうわけですが、歯科のカリキュラムは頭頚部が中心です。理由は、そこが国家試験に出るからです。
一応、身体全部の解剖は行うのですが、首から下は頭頚部に比べて、極端に少ないのです。それが、歯科医師の解剖実習です。私が大学に行って、学び直したかったのは、まさにその全身の部分でした。解剖学的に見て、口や歯と全身はどうつながっているかの、確認です。

結果的に、これは宝物のような経験になりました。
国家試験のための勉強は、試験が終わると頭から抜けてきますが、臨床の疑問を基礎系で答えを探す作業は、生きた知識となって身についてきました。その甲斐あって、何年か後には、患者さんの肩こりや頭痛といった症状を、かみ合わせ治療で一定の割合は治せるようになったのです。

ただ、その改善率は、大まかに言って65%くらい。それ以上はどうしても上がらないのです。
患者さんでも大きな差があり、効果のある人には、ものすごく効果があるのですが、効果のない人には全然ない。
この違いがどうして起こるのか? 自分の技量が上がれば、治療効果も上がるのか? それとも、歯科からのアプローチの限界なのか? 判断がつきませんでした。

それが、ある歯科医師の先生の講習会に行ったのがきっかけで、「大切なのは"歯"というより"舌"ではないのか?」と思えるようになったのです。 これは非常に幸運なことでした。

――その講習会ではどんな気付きがあったのですか?

安藤:その先生の何気ない一言です。「歯の尖りを丸めるといいんですよ」と言われ、これは「舌」ではないかと気が付いたのです。その先生は「舌が大事」とはおっしゃってはいませんでしたけれど。
その日にピーンとひらめくものがあって、その後は、想像を膨らませながら、実地に咬み合わせ治療を施術しつつ、あごと筋肉と歯の理論、「安藤メソッド」をまとめていきました。

まず我々のあごを簡単に説明すると、上のあごは頭蓋骨にくっついているので動きません。噛むという行為は、下のあごが動いて成り立っているのです。その下あごは、4つの噛むための筋肉で、プランプランになっていて、まるでブランコです。つまり、上下のあごは離れていて、下のあごは筋肉で吊り下げられている状態なのです。

歯科大学では、「あごの位置は歯で決まる」と教えます。
しかし、本当でしょうか? 今これを読んでいる皆さんは、歯を食いしばっていますか?
答えは「No!」ですね。

我々は普段、上下の歯は2ミリくらい空いています。つまり、今、宙づりのときのあごの位置が何で決まるのか?
「歯」ではなく、実はそれが「舌」だったのです。驚くべきことに歯科の歴史上、このことは問われてこなかったんですよ。

また、「舌」は、"見過ごされがちな器官"でもあります。
歯科医師は「歯」は診ていますが、「舌」は見ていない。他の科の医師の先生方も、舌はあまり見ていない。なぜか?

舌は健康だからです。健康な人は、人が誰も気を使ってくれないし、つい見過ごされるじゃないですか。舌は良く動くし、血管の塊で温度が高いから、あまり病気にならないんです。
最近は、舌ガンも増えてきて、昔よりは注意をして診るようになりましたが、普段から舌に着目する医療の領域というのは、あまりないんですね。

歯のことだけをやっていたときは、不定愁訴の改善率は65%で止まってしまったのですが、舌やあごに着目するようになってからは、徐々に改善率も伸び始め、今は85%以上に上がっています。(※ 改善率の数値は、安藤歯科クリニックでの患者アンケートに基づく)

■現代人の「あご」の変化から起こる「舌ストレス」

――ご著書の中では「舌ストレス」について警鐘を鳴らしておられますが、舌がストレスを受けてしまう原因はなんなのでしょうか?

安藤:歯は普通、真っすぐ立っていますよね。それが内側に倒れこむように生えていると、歯が常に舌に触れている状態になります。舌は非常に敏感な器官なので、何かに触れていると緊張してしまいます。それが「舌ストレス」の原因です。

現代の日本人はこの50年で、平均して10センチ以上も身長が伸びているんですね。
その理由は「食事の富栄養化」です。それによって歯も昔に比べて大きくなっているんです。きれいな歯並びをしていても、歯そのものが大きくなっているので、舌の収まるスペースは狭くなっている。だから、舌ストレスが起こりやすい状態になっているんです。

さらに問題なのは、現代人はあごの形が変わってきているということです。

現代人のあごは、3つのタイプに分かれます。
歯並びのアーチが円に近い楕円で、歯もしっかりと直立している「ヒト型(ヒューマンスケール)」。歯のアーチがV字で奥歯が内側に倒れこんでいる「イヌ型(ドックスケール)」。イヌ型よりも歯のアーチがさらに狭いV字になって、歯並びも非常に悪い「チンパンジー型(チンパンジースケール)」。この3つです。

当院の238人の計測データでは、ヒト型のあごを持っている人は、現代人の約7.1%。イヌ型が68.2%。チンパンジー型が24.7%です。
歯のアーチがイヌ型やチンパンジー型の人は、舌の収まるスペースも狭くなるので、必然的に舌ストレスも受けやすくなります。

さきほど、現代人の歯は大きくなっていると言いましたが、それに対して、舌の大きさというのはあまり増減がないんです。だから、どのタイプの人でも、同じくらいの大きさの舌が、その空間に収まっています。

舌は血管組織が豊富なので、水を飲むだけですぐに膨れるんですね。今は、水を飲むことを医者も推奨しますから、萎むことがほとんどない。ただでさえスペースが狭いのに、舌が水分で大きくなり歯に接触するから、舌は常にストレスを受けているんです。

これは本当に怖いことなのですが、舌とあごの研究をする医療分野がないために、世界中でまだ誰も指摘していないことです。
歯の矯正をする先生でも、歯を並べるときに、「舌房(舌の収まるスペース)が大事だから、歯を外側に向けて広げよう」という先生もいますが、矯正歯科の大多数の先生は、そのアーチのまま並べるのが主流です。

なぜそれが主流かと言うと、歯が内側に倒れこむことによって、どういう悪い影響が全身に出るかというデータがないからのです。
歯科医師は、全身への影響について関わらないからです。
全身のデータをとっている変わり者は、私を含めてごく少数で、普通の歯科医にとって全身症状は関係がないと思っている。矯正は矯正で、歯をきれいに並べる、というのが目的ですからね。

今回の本で、「舌ストレス」と、その侵襲について、患者さんのみならず、医師や歯科医師にも周知されるようにしたいと考えています。

(後編に続く)

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